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ISASコラム

成果を挙げ外部に貢献し続けること 徳留真一郎
宇宙飛翔工学研究系 准教授

(ISASニュース 2013年2月 No.383掲載)

 筆者は、M-Vロケット用の固体ロケットモータの研究と開発に12年、M-V開発終了後は再使用ロケット用の液体酸素/液体水素推進系の開発と運用に12年携わりました。現在はイプシロンロケットの固体推進系の開発を担当して3年になるところです。それらの背景を踏まえて述べたいのは、持続的に成果を挙げ外部に貢献する組織の仕組みについてです。

 大きな組織で仕事が軌道に乗ると、ささやかな成功体験をよりどころに既存形態の維持が優先され、創造の場で活躍するとんがった人材は出番を失っていきます。すると組織は、「食わせるため」に、元手が要らない内向きの管理業務を必要以上に増やしていきます。そこでは、大過なく過ごし部下と業務を増やすことが成果ですから、「外部への貢献」という組織本来の目的とは無関係に人と業務が増えていくことになります。かくして肥大化した業務に大義名分を与えるため、組織の目的を具現化する「創造的な仕事」が餌食となり、管理が強化され仕事の自律性が圧迫されます。JAXAにも共通する問題として提起しますが、皆さんのご見解はいかがでしょうか。

 解決策は、管理業務の肥大化部分を廃止し、研究者や技術者に外向きの創造的な仕事で成果を挙げるよう仕向けることです。どこの部署も人手不足のようですが、全体としては、お互いにつくり合う管理上の手続きが減る分だけ創造的な仕事が相乗的に促進されるはずです。元手不要で戦略的な大転換が可能な方策です。

 宇宙研がM計画を立ち上げたころは、統合前の他機関も含め、ユニークで多種多様なタレントが集まったと聞いています。当時以上に革新的なことが求められる現在、私たちに、対応する心構えと体制はできているでしょうか。利害関係の調整に奔走するだけでなく、多種多様な才能を受け入れる器と新機軸を打ち出すための仕組みを創ることが、喫緊の課題ではないでしょうか。また、革新的な研究や開発ではリスクが大きくなります。外部機関と手を組む際には、成果を挙げることを最優先とし、不慮の事態についてはお互いのリソースを持ち出して引き受ける相互の信頼関係を築いておくことが肝要です。私たちJAXAは、手を組む相手との信頼関係づくりが不十分なまま研究や開発のアウトソーシングを促進するばかりで、組織本来の目的を達成する内部の自律的な創造基盤の強化を重要課題として正面から受け止めていないように、私には感じられるのです。

 JAXAのXはExplorationを意味していて、いろいろいっぱい試して新機軸を生み出すことが、私たちの外部への貢献なのです。そのためには、多種多様な広がりを持つ知恵の源泉、すなわちさまざまなタレントとそれらを活かす仕組みが必要なはずです。その源泉を基礎とした我々の成果や強みを背景として、手を組む相手と良好な信頼関係を築かない限り、研究や開発のアウトソーシングや共同研究はうまくいきません。開発費だけ出して丸投げすれば、核心的な情報は出てきませんし、そこに起因する不都合が生じた場合、手の打ちようがなくなるかもしれません。そのことを私たちはさまざまな経験から学んでいるはずです。

 ところで、創造的な成果を挙げ続けるためには、やる気の持続が必要です。経験的に、やる気を持続するには、考えたことを自由に試す機会と環境を持つことが大切です。リアルな世界では、紙と鉛筆やパソコンだけで取り組める課題ばかりではありません。少し手間をかけて、器材を整えて行う実験的試行錯誤も必要になります。例えば、火薬や高圧ガスを用いる燃焼実験や飛行実験を自由に行える機会と環境を整えれば、さまざまな分野での競争優位の条件を獲得できるはずです。あとはそれを個人の自己主張のための手段ではなく、外部に貢献する組織として有効に活用するためのマネジメントができるかどうかでしょう。

 マネジメントとは「人に成果を挙げさせること」。達成目標のリスク管理は重要ですが、一手段であり目的ではありません。そのマネジメントで大事なことは、人員配置、かじ取り、フィードバックの三つと理解しました。まず、個性豊かな人材それぞれの強みを知り誰をどの機会に活躍させるか決めておくことは、団体競技の監督と同じマネジャーの役割です。また、任された分野のビジョンを持ちかじ取りすることは、今必要なことと将来必要になることの調和を取るリーダーとしての責任です。さらに、行動の結果得られた教訓を迅速にフィードバックしてその先に役立てることは、人のやる気を引き出し目標の達成を確実にするマネジメントの要諦です。

 以上三つのポイント、「組織の目的」「成果を挙げ続けること」「マネジメント」について、課題を提起させていただきました。本原稿に対するご意見をお待ちしています。

(とくどめ・しんいちろう)


誌上討論シリーズは、最初に議論の出発点となる問題を提起し、これについて読者の皆さまからご意見をお寄せいただきながら、複数号にわたって議論を深めていく企画です。
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