航面とエンジンを有する小型超音速飛行実験機の空力特性の計測

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研究申込者

棚次 亘弘 (室蘭工業大学)

研究要旨

大陸間の高速航空輸送および地球軌道への再使用宇宙輸送を革新することを目指して、室蘭工 業大学を中心として関連する基盤技術の研究を進めている。研究された基盤技術を、小規模なが らも機体システムやエンジンシステムに搭載して、高速飛行環境においてその機能・性能を実証 する計画である。このためのフライングテストベッドとして、全長3 m、全幅1.6m 程度の小型超 音速飛行実験機(無人飛行機)の設計を進めている。この超音速有翼機の飛行プロイファイルと しては、ランディングギアを用いた滑走・離陸、加速上昇、超音速巡航、亜音速旋回、帰還飛行、 および進入・着陸を想定している。
これまでの研究では、この飛行プロファイルを達成するために様々な機体形状の候補を考案し、 その空力性能を風試によって評価してきた。その結果、超音速飛行可能な機体形状としてTable 1 およびFig.2 に示された「M2006 形状」を提案した。その設計マッハ数は2.0 である。これを当 面のベースライン形状としており、風洞試験による基礎空力特性データ(揚力係数、抗力係数、 およびピッチングモーメント係数)に基づいて、推力余裕の解析に基づく加速性能の予測、およ び昇降舵によるピッチング(縦)の静安定を維持した飛行および離着陸の性能評価が実施された。
本年度は、空力および飛行性能に関して残されている評価項目の内、ローリング(横)とヨー イング(方向)の静安定性と制御性を取り扱った。そのために風試模型にエルロン(補助翼)と ラダー(方向舵)を設置し、風洞試験を実施した。
エルロンによるローリング運動性能の基準としては「翼端が描く螺旋角のタンジェントpb/2V」 を適用した。パイロットにとっては、この値が一定であれば飛行速度によらず同じ運動性能を持 つように感じられる。有人亜音速機では、最大舵角で螺旋角のタンジェントが0.09 以上であれば 旋回性能が良好であるとされる。本研究では、全速度領域で十分な操縦性を確保できるように、 舵角10deg のときに螺旋角のタンジェントが0.09 になるようにエルロンの形状・寸法を設計した。
ラダーの設計基準としては単位舵角あたりに生じるヨーイングモーメント係数Cnδr を用いた。一 般的な航空機では、Cnδr= - 0.001 であれば良いとされており、本研究でもこの値を得るようラダ ーの形状・寸法を設定した。舵面を設置したM2006 の三面図をFig.1 に示す。
次に風洞試験の結果を示す。まず、Fig.2 に横滑り角βに対するローリングモーメント係数Cl の値を示す。Mach0.3〜2.0 においてすべて右下がりとなっており、本無人超音速有翼機は、その 全飛行速度領域においてローリングの静安定が確保されるものと判定される。Fig.3 に偏揺れ角ψ に対するヨーイングモーメント係数Cn の値を示す.Mach0.3〜2.0 においてすべて右下がりとなっ ており、本無人超音速有翼機は、その全飛行速度領域においてヨーイングの静安定が確保される ものと判定される。
操舵による機体姿勢の制御性については、動圧の低い亜音速条件で評価することが必要である ため、マッハ0.7 での試験結果を示す。Fig.4 に、翼端の描く螺旋角のタンジェントpb/2V の値を 示す。図中のエラーバーの幅は、計測値の標準偏差の3 倍である。舵角10deg では螺旋角のタン ジェントは0.07〜0.08 程度であり、設計基準0.09 の80〜90%の値になっている。このことから、 エルロン舵角10deg によって、一般的な航空機として概ね良好なローリング操縦性が得られるこ とが解る。Fig.5 にラダーの舵角変化に対するヨーイングモーメント係数の変化の様子を示す。横 軸は偏揺れ角ψ,縦軸はヨーイングモーメント係数Cn である。図中のエラーバーの幅は計測値の 標準偏差の3 倍である。舵角10deg、20deg では、トリム位置すなわちヨーイングモーメント係数 がゼロになる偏揺れ角はそれぞれ約-8deg、-16deg となる。機体の左右対称性を考慮すると、舵角 ±10deg、±20deg ではそれぞれトリム位置は偏揺れ角±8deg、±16deg であることが推定できる。
以上の通り、本研究では、本超音速有翼機体にローリングとヨーイングの静安定が確保される こと、設計したエルロンおよびラダーによって十分な姿勢制御性が得られることが明らかとなっ た。今後はこの評価を元にして旋回性能や片肺時の姿勢制御性、等を検討する予定である.





Key words

Supersonic, Unmanned vehicle, Tangent of helix angle, Aerodynamic stability, Aileron, Rudder, Rolling moment, Yawing moment, Trim



2008年度の研究成果

桑田耕明,笹山容資,飯村拓哉,渡辺侑也,棚次亘弘, 溝端一秀,吹場活桂(室蘭工大),坪井伸幸(JAXA/ISAS), 小型無人超音速有翼機の横および方向の姿勢安定と操縦性に関する風洞試験, 平成20年度宇宙輸送シンポジウム,相模原 2009

溝端一秀,湊亮二郎,吹場活佳,東野和幸,棚次亘弘(室蘭工大) FTB としての小型超音速飛行実験機 の構想と予備的な亜音速機の試作,平成20年度宇宙輸送シンポジウム, 相模原 2009




利用期間

2008年7月22 日〜2008年8月1日

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