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星の残骸から、私たちの素を見つけよう

1. 星の誕生と死

星には、私たちと同じように、 「誕生」と「死」があります。 星の寿命は様々で、 数百万年から百億年程度だと言われています。 我々の太陽は現在50億歳、 あと50億年で死んでしまうのです。

星の中には、死に際に大爆発を起こすものがあります。 爆発はあまりに凄まじいので、数千光年離れた星の爆発でも 地球から肉眼で見えることがあります。 星が新しく現れたかのように見えるので、「新星」と呼ばれ、 その爆発を「超新星爆発」と呼んでいます (注: 現在は新星と超新星は別の現象を示しています)。 後に残るのは、秒速数千キロで膨張し続ける 数千万度のガス球です。 これが、「超新星残骸」と言われている星の死骸です。 爆発の膨張は数万年も続き、隣の星をのみこむくらいに ふくらみます。 まさに、この世の終わりの光景です。

こんな星の大爆発の中は、どうなっているのか、 調べてみましょう。

2. ティコの新星

ティコ・ブラーエ(1546-1601)は、デンマークの天文学者です。 彼は1572年にカシオペア座の方角に、 新しく現れた天体を発見しました。 突然現れたので、彼は「ティコの新星」と名前を付けています。 一番明るい時は、マイナス2.5等まで明るくなりました。 全天一明るいシリウスがマイナス1.5等星なので、 ものすごく明るいですね。 新星はだんだん暗くなっていき、14か月経ったところで 見えなくなりました。

3. 「すざく」が観測した「ティコの新星」

爆発から430年経った今、新星は肉眼で見ることはできません。 しかし、現在もX線を出して光っていることが知られています。 日本のX線天文衛星「すざく」は、ティコの新星の位置を 2006年に観測しています。 このデータを調べてみましょう。

3.1. データをダウンロードしよう。

ティコの新星のデータ(tycho.fits)を あなたのPCにダウンロードしましょう。 右クリックで名前(tycho.fits)をつけて保存して下さい。

3.2. 画像を見てみよう。

ds9を使って、画像を見てみましょう。 ds9を起動し、File -> open の順でクリックし、tycho.fitsを開きます。 zoomをクリックし、zoom 1/2くらいにすると見やすいです。

3.2.1. どんな構造が見えますか?

3.2.2. 直径は何度ですか?

(ヒント: 画像の大きさは一辺が0.3度です。)

3.2.3. ティコの新星の爆発の平均速度はどのくらいでしょう?

ティコの新星までの距離は6000光年と分かっています(1光年は10兆km)。 年齢は、430歳です。

3.3. ティコの新星から出てくるX線の色を調べよう。

fvを使って、どんなエネルギーのX線がたくさん来ているか調べましょう。 fvを起動させ、「ファイルを開く」を選んでtycho.fitsを開きます。

「view」部分の下段左から2番目の「Histogram」をクリックし、 出てきた新しいwindowで、X=energyを選びましょう。Yは空欄にしましょう。 「make」をクリックすると、どんなエネルギーのX線が多いかのグラフが出てきます。

3.3.1. どんな形をしていますか?

3.3.2. 強く光っているエネルギー(色)はありますか? そのエネルギーは何電子ボルトでしょうか?

Min(最小値)・Max(最大値)を書き換えると、拡大したグラフも作ることができます。

3.4. ティコの新星からのX線と元素

ティコの新星からのX線は、 数百万度のプラズマからの光です。 特定の波長で特に明るく光っているX線は、「特性X線」と呼ばれます。 特性X線とは、特定の元素からは必ず同じエネルギー(色)のX線が出てくるというもので、 ちょっと「炎色反応」に似ていますね。

3.4.1. ティコの新星の中の特性X線を出している元素の 原子番号Zを求めましょう。

数百万度に熱せられた水素原子の特性X線のエネルギーは、 10.2電子ボルトです。 特性X線のエネルギーは、原子番号(Z)の二乗に比例します。 (ヒント: 超新星残骸の中の元素は、Zが偶数のものが多いです。)

3.4.2. 元素表を使って、ティコの新星の中にある元素を つきとめましょう。

先ほど求めた原子番号(Z)と、 一家に一枚周期表を用いて、 ティコの新星の中で輝いている元素の名前を突き止めましょう。

3.4.3. その元素、あなたの身近にありますか?どこにありますか?

4. 私たちの源: 星の死

私達の体は、炭素や酸素などで出来ています。 骨にはカルシウム、血液には鉄なども含まれていますね。 おや?これは、ティコの新星の中であなたが見つけた元素と同じですね。

宇宙が137億年前に生まれた時、 水素とヘリウム、ごく少量のリチウム以外は 存在しなかったと言われています。 我々の周りにあるそれ以外の元素は、 星が生きているときに、核融合という反応を起こして、 水素からありとあらゆる元素を作っているのです。 太陽も、現在核融合を使って新たな元素を作りながら 光っています。 出来た元素は、星が死ぬ時に、 ティコの新星のような爆発によってまき散らされているのです。 だから、ティコの新星はいろいろな元素の特性X線で光っています。 まきちらされたガスや塵、その中に含まれる元素は、 長い長い時を経て、 再び集まって星やその周りを巡る惑星となり、 その上で生命が誕生します。 我々も太陽も、一度星が死んでガスや元素をまき散らした後に 生まれたと言われています。 つまり、我々は星から生まれた「星の子供」なのです。

(発展1)5. 元素ごとにみたティコの新星

元素ごとにティコの新星をみると、どうなっているでしょうか?

fvを使って、元素ごとのイメージを作りましょう。 エネルギーを特性X線(元素)ごとに区切り、 それぞれの元素の名前でデータをセーブしましょう。

5.1. 元素は、超新星残骸のどこにいますか?

ds9を使って、ティコの新星のカラー画像を作りましょう。

(発展2)6. 現代の天文学者に挑戦! レアメタルを見つけよう

現代の天文学者は、あなたが研究したティコの新星の全く同じデータから、 クロムやマンガンといったレアメタルを発見しました ( 記者会見資料)。 あなたも見つけられますか?



































答え

3.2.1.

シャボン玉のようなものが見えますね。 これが星が死んだあとの残骸「超新星残骸」です。

3.2.2.

直径はだいたい0.15度です。 天体までの距離は6000光年ですから、天体の直径Rは、
6000光年 x 0.15度/180度 x π (ラジアン) = 16光年

3.2.3.

衝撃波の速度 = 半径/時間 です。
= 8 光年 / 430 年
= 8 x 10兆km / 430年 = 秒速 5900 km
新幹線の速度は300km/hくらいですから、 新幹線の 70000 倍!! ものすごく速いですね。

3.3.1.

ところどころ強いX線を出しているエネルギー(色)がありますね。

どうやら、この大爆発は、特別な色でだけ光っているようです。

3.3.2.

X線のエネルギー(色)の単位は、電子ボルト(eV)といいます。 特に、

1850電子ボルト
2200電子ボルト
2440電子ボルト
2900電子ボルト
3100電子ボルト
3900電子ボルト
6400電子ボルト

などが明るく光っています。 (ここに書かれたエネルギーが全てではありません)。

3.4.1.

実際に見えているX線のエネルギーとZの関係は、以下のようになります。 計算と合っていないところもありますが、 これは原子の構造の違いなどのせいです。
エネルギー(電子ボルト) 原子番号(Z)
1850 14
2440 16
2900 16
3100 18
3900 20
6400 26

3.4.2.

先ほどの表に元素名を足してみましょう。
エネルギー(電子ボルト) 原子番号(Z) 元素名
1850 14 シリコン (Si)
2440 16 硫黄 (S)
2900 16 硫黄 (S)
3100 18 アルゴン (Ar)
3900 20 カルシウム (Ca)
6400 26 鉄 (Fe)

参考図

3.4.3.

窒素や酸素は空気の中に、ネオンは蛍光灯の中に、 シリコンはゴムやコンピュータの中に、 マグネシウムは海水の中に、 カルシウムはあなたの骨の中に、 鉄は建物やあなたの血液の中に。 身近な所にある元素が、ティコの新星の中にあります。

5.1.

原子番号が大きい元素ほど、超新星残骸の内側にあるように見えますね。 これは、星の中心部にはより重い元素が、外側には軽い元素が たくさんあったことを示していると言われています。

赤はシリコン、緑はカルシウム、青は鉄からのX線で作ったティコの新星のイメージ。 fvとds9を駆使すると、作れます。ぜひ挑戦してみてください。

Last Modified: 2010-3-19