日本時間4月20日午後10時08分、山崎直子宇宙飛行士を乗せたスペースシャトル・ディスカバリーがケネディ宇宙センターに無事着陸しました。ネット上の中継でその様子を見守った方も多いことでしょう。シャトルは今年退役が決まっていますので、シャトルへの日本人搭乗はこれが最後。一つの時代の終わりを感じますね。

シャトルでも「はやぶさ」でも、宇宙から地上への帰還はきわめて難しい作業です.特に厄介なのが、宇宙機が大気圏に再突入(*1)するときの大気の壁です。秒速8~10km以上にもなる高速で宇宙機が大気圏に突っ込むと、大気は急激に圧縮されて温度が上昇します(*2)。つまり「大気の壁」は「熱の壁」でもあるわけです。大気圏に再突入したシャトルのノーズコーン (先端部) や翼のエッジは、千数百度の高温にさらされます。
Shuttle
下のリンクは、再突入するシャトル・エンデバーを2月に野口宇宙飛行士が国際宇宙ステーション (ISS) から撮影した写真ですが、機体の周囲の大気が高温で明るく輝いています。
http://twitpic.com/14of2q


「はやぶさ」のカプセルの再突入は、実はシャトルよりもさらにずっと過酷です。カプセルは秒速12kmという超高速で惑星間空間から直接大気圏に突っ込むため、カプセルがぶつかる大気はなんと1~2万度という高温になります(*3)。カプセル表面も、最高摂氏3,000度にも達します。空力加熱率 (単位面積あたりに入る熱エネルギー) はシャトルのノーズコーンの30倍という厳しい条件です。これは電気ストーブ15,000台分相当の熱を一気に受けるのと同等です。


このような過酷な加熱からカプセルの中のサンプルを守るには、シャトルに使われているような耐熱タイルではもはや間に合いません。そこで「はやぶさ」のカプセルの表面には、アブレータと呼ばれる特殊な耐熱材料が使われています。アブレータは炭素繊維で強化されたプラスチックで、高温下では熱分解してしまいますが、そのときに周囲の熱を吸収してくれます。さらに分解によってできたガスが熱を輸送して捨て去り、高温大気が直接機体に触れるのを防いでくれます。つまりアブレータは、自らの身を粉にしてカプセルを守ってくれる大変けなげな素材なのです。

6月、地球大気圏に再突入した「はやぶさ」のカプセルは高温で光り輝きますが、その表面ではサンプルを無事に地上に送り届けるためのこんな壮絶な戦いが繰り広げられているのです。そしてこの流れ星の軌跡は、カプセルの落下地点を割り出す地上スタッフにとっても、とても大事な情報になることでしょう。

(*1) 地球から打ち上げられた物体が地球大気圏に再び戻ることを「再」突入(Reentry)と言います。地球から別の天体(火星など)の大気圏に入るときは単に「突入」(Entry)です。

(*2) よく「大気との摩擦熱で…」という説明を目にしますが、実際には摩擦熱ではなく、大気が急激に圧縮 (断熱圧縮) されることによる温度上昇です。カプセルにすさまじい相対速度でぶつかる大気の運動エネルギーそのものが熱に変化するのです。

(*3) このような超高速の再突入では、シャトルの再突入で支配的な高温空気からの熱伝達による加熱だけでなく、輻射による加熱も無視できなくなります。

(協力・ISAS 山田研究室、イラスト・小野瀬さん)

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