恒星と惑星の間の質量をもつ褐色矮星は、低温で暗いため観測が難しく、詳細な大気の性質はまだ よくわかっていない。褐色矮星の低温な大気はガス惑星と似た組成や温度を持つため、その特性を 理解することはさらに低温な系外惑星大気の理解につながる重要な鍵となる。 これまでは主に低分散分光器を用いて、直接撮像された伴星の褐色矮星や系外惑星の大気の特徴づ けが行われてきたが、近年では補償光学と高分散分光器を組み合わせた観測手法が発展し、そのよ うな暗い天体を空間分解して分光観測を行うことが可能になった。すばる望遠鏡においても、極限 補償光学装置 SCExAO を近赤外高分散分光器 IRD に接続した装置である REACH (Y, J, H バン ド; R~100,000) を用いた観測が始まっている。 本研究では、REACH で観測された天体に対する初めての詳細なスペクトル解析として、L型褐色矮 星 HR 7672B に対する大気の特徴づけを行なった。大気モデル計算コードは ExoJAX を使用し、L 型褐色矮星大気中に存在すると考えられる雲や、観測スペクトル中の主星光の漏れ込みの影響など の追加のモデルを独自に組み込んだ。 このモデルスペクトルを観測スペクトルにフィットしたと ころ、大気構造の制約や、H2O, FeHなどの分子の検出、雲の存在を示唆する結果が得られた。今回 の発表では、解析手法やモデルの説明と、得られた結果について詳しく紹介する。