本日は,事前にブログにてご連絡しましたようにIKAROSのスピンを逆方向
にする「逆スピン運用」に挑戦しました.

一般にソーラーセイルは,マストでセイルで支える方式(マスト型)と
スピンの遠心力でセイルを展張する方式(スピン型)に分けられます.

現在,世界各地で開発が進められているソーラーセイルのほとんどは
マスト型ですが,IKAROSは将来計画を視野に入れ,セイルの大型化に
有利なスピン型を戦略的に採用し,これを実証しています.

スピン型では,膜面の運動が複雑になります.IKAROSではこれまで
大型膜面展開・展張ミッション等を通じてこの運動を解明し,
シミュレーションで再現できるよう力学モデルを構築してきました.

しかし,後期運用では,スピンレートや姿勢を思い切って変化させ
膜面挙動・形状の変化を積極的に引き出して力学モデルをより正確
にすることを一つの研究テーマとしています.

これまでに,この研究テーマの一環として低スピン運用や大姿勢変更運用
を実施してきました.そして今回いよいよ逆スピン運用を実施すること
になったのです.

逆スピン運用はスピン型の基本となる遠心力がなくなる瞬間があるため,
これまで以上にリスクを伴います.膜面の引っかかり,破れ,絡まり等が
発生し,姿勢を大きく乱したり,膜面が本体上面を覆ってしまい,通信や
発電ができなくなることも考えられます(シューマイ状態やギョウザ状態
と呼んでいます).

そこで,これまで得られたモデルで予めシミュレーションを行い,
事前にどのような事象が考えられるか洗い出し,どのデータで
それを判断し,どう対策するか,といったことを一つ一つ議論しました.

たとえば,シューマイ・ギョウザ状態でもタイムラインコマンドにて,
適切なタイミングで,LGA1(上面アンテナ)からLGA2(下面アンテナ)
に自動的に切り替えることで,通信ができる可能性を高めていました.

このほか,スピンレートの自律制御を逆スピン用に書き換えたり,
GAPやALDN等の機器を安全な状態にし,後から悔いが残らないように
これらの観測データを極力リプロしておくといったことを行いました.

そして,いよいよ本番です.事前になるべく低いスピンレートまで
落としておいて,速やかに逆スピン移行する計画です.
IKAROS運用室は大型膜面の展開・展張時以来の緊張感に包まれました.
しかし,イカロス君はそんな重圧をもろともせず,見事に逆スピンに
移行しました.
「成功です!」
さすがイカロス君ですね.

これでまたスピン型ソーラーセイルの可能性が大いにひろがりました.
そもそもスピン型宇宙機が逆スピンになったのは初めてかもしれませんね.

しかし,まだまだ気を抜くことはできません.
IKAROSの逆スピンの運動は必ずしも通常のスピンの運動と一致しません.
この運動を理解して安定的な運転ができるかどうかが今後の運用を
決める重要なポイントと考えています.

IKAROSの運用は大きな山場を迎えました.
引き続きイカロス君の応援をよろしくお願いいたします(O).


10/18のIKAROS
太陽距離: 0.72AU
地球距離: 165469282km, 赤経=166.0°, 赤緯=7.0°
金星距離: 1.36AU(203773965km)
姿勢:スピンレート=-0.2rpm, 太陽角=28deg

Today's IKAROS
Sun Distance: 0.72AU
Earth Distance: 165469282km, RA=166.0deg, Dec=7.0deg
Venus Distance: 1.36AU(203773965km)
Attitude: Spin Rate=-0.2rpm, Sun Angle=28deg


P.S.
南アフリカの路上で慣れないブブセラを楽しそうに吹いていたのは
T2さんだったような・・

IKAROSグッズを紹介します.
打上げ日からの日数を示してくれる「IKA-METER」です.
運用室で活躍しています.4ケタもあるのがうれしいですね.
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