本日は運用では,昨日同様,スピンアップ,データレコーダの再生,
再生レンジングを行いました.

「最近,IKAROSはスピンアップが多く,姿勢制御をしていませんが・・?」
という質問を受けましたので,少し解説します.

「風車効果」
ソーラーセイルは薄い膜面ですので,太陽の光を受けると少したわみます.
このとき膜が完全に左右対称にはならずにアンバランスが発生し,
膜がわずかにスクリューのような形になると考えられます.
この状態で太陽光を受けると「風車」が「風」を受けて回るのと同様に
スピンアップ・ダウンが生じます.これがいわゆる「風車効果」です.
(扇風機の羽を回すと風が発生する,というよりは,
 扇風機に風を当てると羽が回る,というイメージですね)
ちなみに現在,太陽に近づいていますので,太陽の光がどんどん強くなり,
「風車」に該当する膜がよりたわみやすくなることと
「風」に該当する太陽光圧がより大きくなることが相まって,
「風車効果」はさらに大きくなります.

「太陽光圧トルクによる姿勢制御」
昨日のブログでもありますように,IKAROSはスピン運動をしていて
さらに,大きな膜をもっているために姿勢がとても安定しています.
一方で,IKAROSが太陽に対する角度をそのまま維持しようとすると,
軌道運動を考慮して,姿勢を少しずつ傾ける必要があります.
これを行うために,ガスジェットや液晶デバイスを用いて制御します.
しかし,姿勢制御の方法は他にもあります.
これが,「太陽光圧トルクによる姿勢制御」で,
「はやぶさ」で初めて実践されました.
「はやぶさ」は比較的大きな太陽電池パネルを左右に持っていて
太陽光圧を受けていました.
これらが太陽に対し直角になっていない場合,太陽から受ける力は
左右で異なり,トルクが発生して姿勢がわずかに変化します.
この姿勢変更の速度と軌道運動を完全に一致させると
太陽に対する角度を常に一定にすることが可能となります.
「はやぶさ」では姿勢系や推進系のトラブルが発生したため,
代替案としてこの方法が考案されました.
ちなみに,姿勢変更の速度はスピンレートで調整できます.
(スピンレートが大きくなると姿勢が変化しにくくなります)
IKAROSでも,膜を使ってこれと同様の制御を実践しています.
膜が大きく柔軟であるために,はるかに複雑ですが,
燃料を使わずに姿勢を制御できるのは大きなメリットです.

というわけで,「風車効果」と「太陽光圧トルクによる姿勢制御」の
二つの観点で最近スピンレートを調整しています.
太陽距離や太陽角などさまざまな条件によっても調整度合いが
変化します.
「宇宙ヨット」を実際に操縦して,いろいろなデータを取得することで,
こういった大事な「技」を磨くことができます.
いい船をつくることも大切ですが,経験豊かな船乗りになることも
航海には欠かせないことだと思います.(O)


11/6のIKAROS
太陽距離: 0.77AU
地球距離: 33912159km, 赤経=-147.2°, 赤緯=-14.9°
金星距離: 0.06AU
姿勢:スピンレート=2.0rpm, 太陽角=16.6deg

Today's IKAROS
Sun Distance: 0.77AU
Earth Distance: 33912159km, RA=-147.2deg, Dec=-14.9deg
Venus Distance: 0.06AU
Attitude: Spin Rate=2.0rpm, Sun Angle=16.6deg


P.S. 我が家では,「納豆派」の妻子に対し「反納豆派」の私は劣勢です・・