ソーラーセイルのアイデアは約100年前からありましたが,
これまで実現できなかった理由の一つに
「帆となる膜を作れなかった」ことがあげられます.
そこで,今回は膜製作の秘話について紹介しましょう.

「IKAROSの膜は片側にアルミ蒸着された7.5ミクロンの
 ポリイミド樹脂で構成されています.」

ソーラーセイルは宇宙空間で燃料を使わなくても
太陽の光を受けて進んでいける,というのがウリです.
膜が重くなると「燃料を搭載した方がマシ」となり本末転倒です.
IKAROSの膜厚は,なんと髪の毛の太さの1/10しかありません.
しかも,厳しい宇宙環境に耐えられるポリイミド樹脂を採用しています.
これ以外の樹脂であれば,紫外線や放射線等によって,
すぐにボロボロになってしまうでしょう.
また,ポリイミド樹脂は薄黄色であり,向こうが透けて見えますが,
太陽光を反射しやすくするため,IKAROSの膜の太陽面は
アルミニウムを吹き付けてあり,銀色の鏡のようになっています.
(http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/pdf/presskit0506.pdf
 の6ページの下の写真を参照してください)

「IKAROSの膜は接着剤で貼り合わせて作られています.」

実はこの接着剤が「くせもの」です.
接着剤は宇宙空間でアウトガスを発生するため,
観測機器に付着して性能を劣化させる恐れがあります.
また,せっかく耐宇宙環境性に優れたポリイミド樹脂を使っていても
接着剤の耐久性で寿命が決まってしまいます.
(もちろん,イカロスの翼のロウよりはずっと長持ちします・・)
接着剤の重量も無視できませんし,接着作業も大変です.
そこで,IKAROSでは,将来を見越して接着剤を使わなくても
加熱することで融着するポリイミド樹脂の開発に挑戦しました.
打上げまで2.5年という厳しい制約にもかかわらず,
なんとか間に合わせて,実際に膜の一部で使用できました.
(ポリイミド樹脂のシェアのほとんどは日本のメーカが占めていて,
 技術協力体制ができていたからこそ実現できたと言えます)

「膜作業は学生君のチームワーク・根性です.」

膜の試験を行うたびに,膜を広げたり畳んだりする作業が発生します.
1辺14mの巨大な超薄膜を取り扱うのは並大抵のことではありません.
実は,膜の製作・試験・巻き付け等の膜作業は,多数の学生君たちが
熱心に作業を行ってくれたおかげで実現できました.感謝感謝です!
何事も最後は,地道な努力がものを言うのだと実感しました.
(ちなみに,膜作業中に膜に亀裂が生じることがありますが,
 一ヶ所ずつ確実にテープで補修します)

これらの秘話も踏まえて,改めて膜が開いた分離カメラ画像を見ると,
ソーラーセイルの長い歴史を感じずにはいられません・・(O)


8/20のIKAROS
太陽距離: 1.02AU
地球距離: 30584262km, 赤経=-133.1°, 赤緯=-27.7°
金星距離: 0.54AU
姿勢:スピンレート=1.5rpm, 太陽角=29.7deg

Today's IKAROS
Sun Distance: 1.03AU
Earth Distance: 30584262km, RA=-133.1deg, Dec=-27.7deg
Venus Distance: 0.54AU
Attitude: Spin Rate=1.5rpm, Sun Angle=29.7deg