IKAROSチームの船瀬 龍(ふなせ りゅう)です.

突然イカロス君からの無茶ぶりを受けたので,慌てて自己紹介原稿を書きました...
昨日はちょうど休暇を取っていたのですが,どうやら,そういう油断している時に限って無茶デブリが飛んでくるようですね...

自己紹介ということで,まずは私がIKAROSプロジェクトに携わるまでの話をしたいと思います.多少長くなってしまいますが,それぞれに超意欲的なIKAROSプロジェクトのメンバーが,どのようなモチベーションでプロジェクトに携わっているのか,ひとつの例として見てもらえればと思います.

森さんの自己紹介にもありましたが,私も「深宇宙探査機を作りたい」と思い続けて大学時代を過ごしてきました.
きっかけは,高校時代(たしか高校3年生の時)に新聞で見た,火星探査機「Mars Pathfinder」が地球に送ってきた火星の画像です.火星の荒涼とした大地と,そこでひとり仕事をこなすローバーの姿に愕然とするとともに,長期間の開発から,打ち上げ,火星着陸を経て,ローバーがちゃんと動いて,画像が地球に届いた瞬間のプロジェクト関係者の気持ちを想像するだけで鳥肌が立ちました.「こんなにエキサイティングな仕事は他にないだろう.是非味わってみたい」と思いました.
それまでは特にモノ作りにも宇宙開発にも全く興味がなかったのですが,地球からこんなに遠く離れたところでひとり仕事をし続けるこの探査機のことを単純に「かっこいい!」と思い,「どうやって動いているんだろう?」からすぐに「自分で作ってみたい」と思うようになりました.その日から,すっかり進路を変更し,航空宇宙工学の道に進むことになりました.

大学時代は,世界最小の超小型人工衛星CubeSat(http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/cubesat/)の開発に明け暮れる毎日でした.そこでは,自分の手で人工衛星を作るという得難い経験を積み,「宇宙で動くモノを作る」ということの基礎を学びました.ちなみに,所属研究室の第一号衛星"XI-IV(サイ・フォー)"のプロマネが,現在同じIKAROSチームの先輩である津田さんで,私は二号衛星"XI-V(サイ・ファイブ)"のプロマネをしていました.
一方で,CubeSatプロジェクトに没頭しつつも,「地球周回ではなく深宇宙に行く探査機が作りたい」という思いも捨てがたく,自分自身の研究としては「宇宙機の制御」,特に,「宇宙機の自律化・知能化」をテーマに学位を取得しました.地球から遠く離れる深宇宙探査機にとって最も大事なのは,宇宙機が地球からのサポート無しに自分の判断で自分を制御する技術だ,と考えてのことです.

その後,大学院卒業時に「月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)」という,惑星探査プロジェクトを専門に行う部署がJAXA内に発足し,そこで研究するポジションを得て,しかもJAXAに来てすぐにIKAROSというとても挑戦的なミッションが立ち上がり,中心メンバーの一員として携わることになったのです.本当に幸運に恵まれた気がします.

私は,IKAROSでは,ミッション系機器全般と,姿勢制御系,液晶デバイスを担当しました.
「ミッション系機器」というのは,「ミッションを実行するための機器」という意味で,IKAROSでは,セイルの展開,画像による展開の確認,薄膜太陽電池の発電確認などを行うための機器のことを指します.
IKAROSチームにはあまり電気系に強い人がいなくて,「手作りで衛星作っていたんだからエレキのことはよく分かるでしょ?」的な流れで,いつのまにかミッション系のエレキはほとんど全て自分が担当することとなりました.
これが不幸?(いや,ある意味鍛えられたので幸運なのかも)の始まりでした.セイル展開という華々しいミッションも,それをコントロールする機器が正常に動かないとおじゃんです.人一倍心配症の私は,皆で「二次展開のダイナミクスが...」といった議論に興じている最中も,「このタイミングでドライバが動かなかったどうなる?」とか「この部品が壊れたらどうしよう?」といったことがちらつきます.設計から製作・総合試験・打ち上げまで,気の抜けない日々を過ごしていましたが,セイル展開と薄膜太陽電池発電確認まで無事に成功し,「動作して当たり前」というプレッシャーからようやく解放された気がします.
ちなみに私の年齢は30歳.学生さんを除くとIKAROSチームで最年少になりますが,最年少の人間にこんな事を任せてしまう宇宙研って,すごいところだと思います.
そういった裏方的な仕事とは別に,姿勢制御系や液晶デバイスの開発は本当にエキサイティングでした.ここでも苦労話は山ほどありますが,別の機会にしたいと思います.

いずれにしても,深宇宙探査に対する積年の思いを叶えることになった,私自身の初めての深宇宙ミッション「IKAROS」には,相当の強い思い入れをもって参加しました.大成功を収めることができて本当に良かったと思いますし,その成功を,次の木星探査ミッションへ確実につなげていくべく,決意を新たにしているところです.


…ところで,大学時代もJAXAに入社してからも,「宇宙機を上手く制御する方法」を追求してきた私ですが,家では,円満な家庭を実現するために,「奥さんに上手くコントロールされる方法」についての研究?を行っています.制御の研究者が必ずしも「上手い制御のされかた」を知っているわけではないですが,対象(相手=妻)の動作・ダイナミクス(考えていること・思考パターン)をよく理解することが重要であることは言うまでもありません.まだ結婚して一年目の新婚夫婦ですが,それまでの付き合いは長いので,だいぶ「制御のされかた」のノウハウ?が蓄積されてきております.(もちろん,普段は難しいことは抜きに,単純に新婚生活を楽しんでいますよ!)

ただ,結婚直後は,「頑張れば早く帰宅できることが分かった」などという「暴言」を某TV番組で吐いた私ですが,あっという間に仕事の忙しさに流されるようになり,今やすっかり結婚前の生活パターンに戻りつつあるのが,ここ最近の悩みですね.これも,「仕事と家庭に対する時間割り当ての最適化問題」として,エレガントに解いてみたい問題ですが,難しそうです.

きっとブログで私に無茶ぶりしたT2さんは,もっと上手に仕事をこなしつつ結婚生活も楽しんでおられるんだと思います.T2さんに自己紹介が振られたら,その辺りも是非うかがってみたいものです.