現在の宇宙は、どちらかというと斜陽の季節に差し掛かっています。例えば1年間で新しく生まれる星の数(星生成率)は、宇宙全体で見ると減少の一途をたどっていて、70億年前に比べると10分の1にまで落ち込んでいます。逆にいうと、それだけ昔の宇宙は活発で、激しい星生成が起きている銀河が数多く存在していました。私たちの銀河系では、1年に太陽1個分くらいの質量のガスが星になっていますが、70億年以上前の宇宙では、その100から1000倍の勢いで新しい星が生まれている銀河があります。そのような激しい銀河には、ガスや塵が大量にあって、新しい星の光(紫外線)のほとんどは塵に吸収されます。その結果、銀河は塵が放射する赤外線で最も明るくなります。つまり、そのような激しい星生成を行っている銀河を観測するには、「あかり」のような赤外線天文衛星が最も適しています。

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図23 約60億光年先にある銀河のスペクトル・エネルギー分布
赤く示した波長帯では、多環芳香族炭化水素(PAH)放射が卓越している。

私たちは、「あかり」の近・中間赤外線カメラ(IRC)を使って大規模なサーベイ観測を行い、0.38平方度(満月2個分ほど)の空を2~24マイクロメートルの赤外線で深く観測しました。特に、9つの異なった波長帯で撮像観測をしたことが特徴です。中間赤外線域では、塵の中でも大きさが0.01マイクロメートル以下の非常に小さい、大きな分子といった方がよいような物質(多環芳香族炭化水素:PAH)が強く光っています。図23を見ると、観測波長で10マイクロメートル(赤方変移を受ける前の波長で6マイクロメートル)付近から長い波長に向けて、天体からの放射が急激に大きくなっていますが、これはPAHによる放射特性によるものです。このため、「あかり」による7、9、11マイクロメートルの3種類のデータからカラー画像をつくると、非常に赤い天体となります(図24)。

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図24 PAH放射の強い銀河のカラー画像
左から、「すばる」望遠鏡による可視光、「あかり」による近赤外線(2、3、4マイクロメートル画像の合成)、中間赤外線(7、9、11および15、18、24マイクロメートル画像の合成)の観測。

「あかり」の観測は、このようにPAH放射が非常に強い銀河を見つけるのに適しています。爆発的な星生成を起こしている銀河は近傍にもまれにありますが、「あかり」で見つかった遠方赤外線銀河は、もっと規模が大きく、銀河形成の観点でも重要な役割を演じていると思われます。このように活動的な銀河の中には、星生成以外に、銀河中心の大質量ブラックホール周辺(活動銀河核:AGN)からの赤外線放射が卓越している場合があります。私たちは特に、可視光(Rバンド=波長0.7マイクロメートル)と中間赤外線(15マイクロメートル)での明るさの比(色)が極端に赤い天体(Extremely Red Mid-infrared Objects:ERMOs)に注目し、塵に隠されたAGNの解析をしています。

このように、「あかり」による大規模サーベイでは、銀河系近傍には見られない激しい活動性を見せる銀河が数多く見つかりました。今後、これらの特殊な銀河が、銀河の形成過程で果たした役割を明らかにしていく予定です。

(たかぎ・としのぶ)