「あかり」のこれまでにない高い空間解像度を駆使し、オリオン座の1等星ベテルギウスが解き放ったガスがその周囲で流れる星間ガスと激しく衝突し、混じり合う様子をとらえることができました。

どんな星も年老いると、さまざまな方法でまわりの星間空間に自分の身を吹き出していきます。そして、星間空間に吹き出された物質の一部は、冷えて固体微粒子(塵)になります。こうして星々が長い時間をかけて大量のガスや塵をじわじわと星間空間にまき散らしていく過程は「質量放出」と呼ばれ、宇宙の物質循環において大きな役割を担っていると考えられていますが、その仕組みはいまだに完全には解明されていません。これまでのところ、質量放出では、星のガスが冷えて一部が塵になり、ガスと塵が混ざり合ったほこりっぽい風(星風)となって星周空間へ流れ出していくと考えられています。放出された後の塵はどんどん冷えて暗くなっていきますが、何かの原因で再び暖められると、そこで再び遠赤外線を出して光ってくれるので、塵の居場所を知ることができます。

遠赤外線で光る塵の居場所を探ることができれば、星からの質量放出がどのように起こるのか、星風はどこまで広がっているのか、星間物質とはどういう出会い方をして、どのように混ざり合っていくのか、そういった問いに対する答えを見つけることができます。そこで「あかり」の出番となるわけです。「あかり」の遠赤外線サーベイヤ(FIS)は、波長65、90、140、160マイクロメートルの4波長で、塵の放つ遠赤外線をとらえることのできる観測装置です。この波長域は絶対温度30K(マイナス243℃)程度のものをとらえるのに適していて、星のまわりに広がっている冷たい塵が少しだけ暖められている場所を探すのにうってつけです。そして、多くの星が実際にFISで探査されました。

akari_10_1.jpg

図12 「あかり」遠赤外線サーベイヤによるベテルギウス周辺の3色合成擬似カラー画像
波長65、90、140マイクロメートルにおける画像を、それぞれ青・緑・赤の3色に割り当てて作成した。ベテルギウスが星間物質に対して進む方向に、星から吹き出た物質と、星間物質が衝突してできたバウ・ショック(弧状衝撃波)が見える。バウ・ショックの差し渡しは約3光年に及ぶ。ベテルギウス本体を貫き、左上から右下に伸びる白い光は、観測装置の特性による人工的な偽信号。ベテルギウスは、画面右下手前から左上奥に向かって進んでいる。

その結果の一つとして「あかり」が詳しく描き出したのは、活発な質量放出星ベテルギウスのまわりの塵が放つ弧状の輝きです(図12)。ベテルギウスは、オリオン座の左上部に赤く輝く、地球から約640光年の距離にある年老いた重たい星です。中心の青白く描かれたベテルギウスを取り囲むように弧状に光っている構造は、その独特の形状からバウ・ショック(弧状衝撃波)によるものと考えられます。星風が星間物質にぶつかると、物質の密度や圧力が急激に変化する「衝撃波」と呼ばれる現象が発生します。ベテルギウスが星間空間を動いているため(図12では右下手前から左上奥に向かって)、進行方向の前面に当たる左上側で弧状の衝撃波が発生したと考えられます。そして塵は衝撃波で暖められ、遠赤外線で姿を現すことになったというわけです。観測されたバウ・ショックの形状を理論と比較することで、ベテルギウス周辺に星間物質の大河が流れ、ベテルギウスはその大河を横切って動いていることが分かりました。この大河はベテルギウスの付近では時速4万kmで流れ、ベテルギウスはこの流れを横切りながら時速11万kmで進んでいます。ベテルギウスから吹き出す時速6万kmの風が船の舳先のように星間物質の川をかき分けているところが、バウ・ショックとして見えているのです。この星間物質の大河は、オリオン座の大星雲やその周辺で次々に生まれている、若くて大きい星の集団が源流であると考えられます。「あかり」による観測で、星風と星間物質がぶつかり、バウ・ショックを形成する例が次々と見つかっています。今後の解析の進展にご期待ください。

(注)ベテルギウスの星風とそのまわりの星間物質の間で衝撃波が発生していることは、25年前にIRAS衛星による観測からも示唆されていました。しかし、IRASの観測では解像度が不足していたため、詳しい状況は分かっていませんでした。今回の「あかり」の画像は、これまでよりも数倍解像度が高く、初めて衝撃波の細かい構造まで詳しく調べることを可能にしました。

(いずみうら・ひでゆき、うえた・としや)