ハイブリッドロケットの研究がライフワーク

宇宙研ではどんな研究を?

宇宙研で研究を始めて9年目。ハイブリッドロケットの研究や固体推進系の研究、イプシロンロケットの開発などに携わってきました。特に、「ハイブリッドロケット」の研究は学生時代から一貫して取り組んできました。ロケットが推進力を得るには、「燃料」と「酸化剤」の両方が必要です。固体ロケットはこの2つを混ぜ合わせて固体状の推進薬にしたもので、火薬という分類になり、1度火をつければそのまま最後まで燃え続けます。一方、液体ロケットは燃料・酸化剤ともに液体で、燃焼器に両者を噴射し、混合させて燃焼させます。これらに対してハイブリッドロケットは、一般的には酸化剤が液体で、燃料が固体です。その最大の特長は優れた安全性にあります。酸化剤と燃料が混合していないため固体燃料の表面でしか燃焼しないので、燃料にヒビが入っていたり、酸化剤が漏れたりするなどの不具合が発生しても、爆発的に燃焼することはありません。本質的に非爆発性の推進系であると言えます。従来のロケットは、安全性を担保するためにコストがかかるため、ハイブリッドロケットは低コスト化にも有効です。反面、燃えにくいという欠点もあり、いかに効率よく燃やすかが課題となります。

私は、燃料にプラスチックやワックスなどの一般的な危険物ではない高分子材料を使い、酸化剤に液体酸素を使うハイブリッドロケットエンジンの研究を進めています。特に、燃えにくさを解決するために、酸化剤に旋回を与えて噴射し、固体燃料とよく混ざるようにして燃やそうという方法を研究しています。安全でしかも低コストで飛ばせるハイブリッドロケットは、理論的には昔からある技術で、人を乗せるには最も適しています。実際に性能を出すのが極めて難しく、未だ実用化には至っていないものの、米国の民間企業が計画している宇宙旅行用の弾道飛行ロケットには、ハイブリッドロケットが採用されています。ハイブリッドロケット以外では、2013年からイプシロンロケットの開発に参加し、強化型イプシロンロケット開発では、新規開発の第2段モータM-35の開発を担当し、開発最終段階の地上燃焼試験では実験主任を担当しました。また、基礎研究としては、現在、固体ロケットモータのレーザー点火の研究にも注力しています。

注目している技術は?

「再使用ロケット」です。使い捨てではなく、地上に戻ってきたらまた使おうというコンセプトです。イーロン・マスク氏のSpaceX社が液体ロケットでの再使用技術を着々と実現していますが、来るべき宇宙旅行時代には欠かせない技術です。将来的には宇宙輸送系も航空機と同様に、故障が発生しても帰還でき、何度も使用できるようにしていくべきと考えています。再使用技術が確立されたら、ハイブリッドロケットに置き換えることで故障許容性が格段と高くなります。人が安心して安く宇宙を旅するために欠かせない技術であると考えており、大きな関心を寄せています。

宇宙飛行は一旅行者として楽しみたい

宇宙に興味を持たれたのはいつから?

宇宙ヘの憧れは子どものころからありました。きっかけは映画で、『スター・ウォーズ』や『2001年宇宙の旅』などを観て「宇宙って不思議な空間だな」と思ったのが始まりです。小学校6年生の時、秋山豊寛さんが日本人で初めて宇宙へ行き、その後、毛利衛さんも続きました。こうした活躍の報道に触発され、「自分も宇宙に行ってみたい」という思いがより強くなりました。ただ、スペースシャトルやロケットの事故も多発しており、現状のロケットにはとても乗りたいとは思えませんでした。大学に進学して、ハイブリッドロケットに出会い、この技術を使って自分自身が安心して乗れるロケットを作りたいと思うようになりました。博士課程までハイブリッドロケットの研究に没頭し、卒業後は㈱IHIに就職しました。そこでは、ロケットではなくジェットエンジンの燃焼器やアフタバーナの研究開発をしました。燃焼工学と推進工学を専門としていましたので、非常に興味深い仕事でした。2年ほど勤務して、宇宙研に転職し再びハイブリッドロケットの研究を始めました。民間企業の場合は、ただ良いものを作ればいいわけではありません。新しく良い製品であると同時に、利益につなげなければならない。本当に自分が作りたい物を作れる環境ではありませんでした。ですから、目先の利害に関係なく自分の良いと思う研究に没頭できる宇宙研に来た時は、本当にいい環境に身を置くことができたと思いました。

私自身、宇宙飛行士ではなく旅行者として宇宙を楽しみたいと思っています。出張より旅行の方が楽しいですから。宇宙旅行の費用を安くし、安心して行けるように、それを実現するために、日々ハイブリッドロケットの研究を進めています。同じように考えている方がおられるようでしたら、是非一緒にハイブリッドロケットの研究をしませんか?

【 ISASニュース 2018年11月号(No.452) 掲載】