2015年の8月末、突然NASAから「2018年に打上げ予定のSLSロケット1号機の相乗り探査機枠に空きができたので、興味がある宇宙機関はミッション提案を10月9日までにして欲しい。ただしその科学的および技術的目的が将来の有人探査を推進するのに役立つものであること。」との連絡がJAXA国際宇宙探査推進チーム* あてにありました。通常の科学衛星は、3年程度かけてワーキンググループでミッション検討をしてから提案をしますし、観測ロケットや大気球にしても、毎年公募があることがわかっているので、科学コミュニティではそれに向けて準備をしています。しかし今回は、月へ向かう軌道で分離される超小型探査機(質量14kg以内、サイズ11×24×37cm)であり、そのような相乗り打上げ機会があるとは考えていませんでした。そこで急遽、JAXA内でアイデアを募り、JAXA内での評価を経て、複数の計画をNASAに提案しました。その中から選定されたのが、この連載の対象、EQUULEUSとOMOTENASHIです。

まず初めに、打上げロケットSLSの説明からしましょう。Artemis(アルテミス)計画は、2024年までに人類を再び月面に立たせ、将来の火星有人探査につなげていこうという米国の計画で、日本も協力することを表明しています。この計画を実現するため、NASAはアポロ宇宙船を打ち上げたサターンロケットとほぼ同じサイズの巨大ロケットSpace LaunchSystem(SLS)を開発しています。宇宙飛行士が乗る宇宙船はOrion(オリオン)で、SLSの1号機(Artemis-1)では無人のOrionを載せ、月のまわりを周回してから地球に帰還するまでの行程をシミュレーションします。Artemis-1に搭載される超小型探査機は全部で13機、10機は米国内で公募されたものですが、追加で搭載が決まったのは日本のEQUULEUS、OMOTENASHIとイタリアのArgoMoonです。Orionと相乗りであるため、超小型探査機でありながら、有人宇宙船と同様な厳しい安全基準が課せられています。

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SLSロケットと搭載される13機の超小型探査機のミッションロゴ。

では次に、本連載の主役を紹介します。EQUULEUS(EQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft)は、超小型深宇宙探査機としては世界初となる、月、地球、太陽の重力が釣り合うラグランジュ点のうちの月の裏側に位置する地球(Earth)―月( Moon) 系の第二ラグランジュ点(EML2)へ向かう計画で、そのための軌道変換技術の開発・実証と、月・地球周辺の磁気圏プラズマ、微小隕石・ダスト環境の観測を行います。超小型の推進系として、気化させた水を排出して推進力を得る水レジストジェット(AQUARIUS)を開発しました。超小型通信機はOMOTENASHIと共通設計で開発しました。地球磁気圏の全体像把握のためにプラズマ撮像装置(PHOENIX)、月裏面への隕石衝突を観測するために2台の閃光撮像カメラ(DELPHINUS)、地球~月圏の宇宙塵の分布を調べるために断熱材に衝突する微粒子を計測するセンサ(CLOTH)を搭載しています。EQUULEUSの開発は東京大学が中心となり、JAXA、日本大学などが協働しています。

OMOTENASH(I Outstanding MOon exploration TEchnologiesdemonstrated by NAno Semi-Hard Impactor)は、世界最小で月面着陸を目指す計画です。着陸時の減速には小型固体ロケットモータを使用しますが、固体モータは燃焼中の推力を調整できないため、いわゆるソフトランディングはできず、セミ・ハードランディングになります。着地速度は秒速50m程度の速度になる可能性があるので、耐衝撃技術も開発しました。また、地球・月周辺の放射線環境測定を行うため、超小型の放射線モニタを搭載しています。超小型で月面着陸を実現するために、超小型の分離機構、通信機、搭載計算機などを開発するとともに、世界中で市販されている超小型の機器を探し搭載しました。OMOTENASHIは、JAXAの若手技術者、研究者を中心に開発していますが、難しい新規技術に挑戦しているため、JAXA内外のベテラン技術者の知恵と技能の助けを借りています。

本原稿執筆時点ではArtemis-1の打上げは2021年9月に予定されており、両探査機ともハードウェアの開発は完了し、現在、搭載ソフトウェアの試験や運用練習などを実施しています。来月から両探査機の搭載機器やミッションの詳細について解説していきますので、苦難の開発の過程をご堪能ください。

(橋本 樹明、船瀬 龍)

* 当時、部門横断的に将来の探査について検討をしていたチーム。その成果が国際宇宙探査センターの設立につながった。

EQUULEUS

OMOTENASHI

完成したEQUULUES(上)と OMOTENASHI (下)。

【 ISASニュース 2020年11月号(No.476) 掲載】