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第44号 1997年6月13日発行

目次


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ASTRO-F データの処理とその公開について

 MV1号機による”はるか”打ち上げが成功し、宇宙科学研究所は新しい時代に入った。宇宙研にとっては大変喜ばしいことではあるが、一方で衛星の大型化に伴う問題もいくつか残されたままになっているように思われる。その一つとしてデータ量の飛躍的増大に対する対処があげられる。私は昨年 4 月に着任し、今年から始まった ASTRO-F (IRIS ) の立ち上げに忙殺されているが、衛星打ち上げに成功しデータが出だした後のことを考えるとその対応策がないことに空恐ろしさを覚えている。我々の場合を参考に今後の宇宙研のデータベースのあり方について考えてみたい。

 科学衛星はその本来の目的から、得られたデータができるだけ多くの人に利用され、そこから新たな科学的成果が生まれることが期待されている。これに対し、現在の宇宙研のシステムは衛星を打ち上げることに主力が置かれ、上がった後の衛星運用やデータ処理、データのアーカイブ化、公開などにはあまり面倒見が良くないのが問題である。衛星が小さなうちは何とか凌げて来たものが新たな MV の時代に通用しなくなりつつあるように思われる。

 具体的な例として我々の ASTRO-F の例をあげよう。ASTRO-F の性格は赤外線領域で無バイアス的に全天のサーベイを行う「サーベイ衛星」である。ASTRO-F は得られたデータを整約し、データベースを公開し、世界中で利用されるようにすることをミッションの目的としている。この種の衛星の例としては 1983 年に NASA が打ち上げた赤外線天文衛星 IRAS (Infrared Astronomical Satellite) がある。IRAS データはその完全さ、利用のしやすさのために世界中の天文学者に歓迎され、現在でも天文学研究に欠くべからざるデータベースとなっている。実際、IRAS データによって発表された論文数は 10 カ月のミッション終了後、年毎に増大し、1989 年に最大数(約 550 篇)に達している。

 IRAS の場合には Caltech および JPL が専用のデータ解析センター IPAC (Infrared Processing and Analysis Center) を作り、ミッション終了 1 年後には最初のデータが公開され、その後も度重なる改訂がなされている。IRAS に比べると ASTRO-F は検出器の進歩を反映してデータ量が IRAS より膨大となっているのが大きな特徴である。1 年間の ASTRO-Fミッション期間での総データ量は 1 Tbytes、これにより検出される点源の数は 1000 万 個と推定され、 IRAS の約 100 倍に達する。 ASTRO-F のために新たな施設を作ることは日本では不可能と思われる現状の中で、宇宙研がどのようにすれば IRAS に相当する成果をあげることが可能かどうかが問われているといえよう。

 具体的な ASTRO-F のデータ処理には以下のようなプロセスを必要とするものと思われる。
#1 Flight QL
衛星の運用、各 FPI の動作チェック・較正、データ取得
#2 Pointing reconstrction
焦点面におかれたスターセンサーおよびジャイロデータにもとづく姿勢決定(日陰があるときには軌道ごとに姿勢決定を行う必要がある)
全天サーベイ終了後 1 年以内での終了を希望
#3 Calibration,
生の観測データを天体からのフラックスに変換する方法を確立する
#4 Point source extraction, Confirmation
宇宙線等と天体を区別し、同じ天体の信号を抜き出す
event list から天体カタログへの変換
#5 Identification
見つけだされた天体を他のカタログと比較して既知の天体と同定する
#4、#5 を 1 年以内で完成することを目指す
#6 データの公開
IRIS 全データの整理、保存、更新、公開、配布 3年間程度は継続する
 このうち #1、#6 は他の衛星にとっても共通であるが ASTRO-F については #2-#4 に対する作業量が相当に大きくなるものと考えられる。とはいえ、他の衛星に必要な #6をケアする体制も現宇宙研の体制では十分とは思われない。ASTRO-F がかかえている問題も宇宙研の衛星計画の中でデータをどう処理し、公開していくかを考えるなかで解決すべきであろう。外国との協力(特に NASA )に頼るという考えもあるが、ASTRO-F チームではデータを有効に生かすために出来るだけ日本国内で解析が行われることが望ましいと考えている。この種の問題にこれまで積極的に取り組んでこられた PLAIN センターが中心になってしかるべき体制が整えられることを願っている。
(松本 敏雄)


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宇宙科学データベースの現状と将来

 4月号のPLAINセンターニュースでお知らせした「DARTS」データベースを5月より「試験公開」しており、宇宙科学研究所においても、WWWを利用した一般公開のデータベースがようやく幕開けしました。現在、主に「あすか」衛星および「ようこう」衛星のプロジェクト関係者に評価をしていただいているところで、DARTSシステムの「バグ」取りやハードウェアー性能の評価を行っています。もちろん一般公開しているデータベースなので、多くの方に是非利用して頂きお気づきの点をお知らせくだされば幸いです。DARTSは「http://www.darts.isas.ac.jp」にてアクセスできます。現在「DARTS」データベースでは、X線天文衛星「あすか」の観測データと太陽物理衛星「ようこう」の観測データおよび可視化を伴ったデータ解析ツールからなっています。今年度中には地球物理衛星「ジオテイル」のデータ等も登録し、また将来は過去の衛星観測データも含んだデータベースへと発展することを考えています。

 ところで将来的には宇宙科学のデータベースはどのようなものが要求されるのでしょうか。アーカイバルデータベースを利用して、本当に有益な科学研究が出来るようにしたいものです。このあたりの議論は、「DARTS」構築にあたり色々とお世話になった国立天文台の「MOKA」データベースグループとも話し合っておりますが、是非広い分野にまたがる地球惑星・天文学の研究が出来るようにしたいと思っています。特に天文学では、電波・赤外・可視光・X線・γ線といった波長の異なる領域の観測をあわせることによって、深みのある研究が可能になり、またこの方向で既に多波長領域での総合データ解析研究も行われています。しかし、多波長領域の異なる観測機による観測データを集めるのは困難であるようです。将来の宇宙科学データベースでは、多波長領域の総合データ解析研究が出来るようにしたいものです。取りあえず試みとして、「あすか」衛星のX線観測データと天文台の持つ光学観測データを互いにリンクして、「DARTS」システムからも「ボタン」をクリックするだけでX線と同時に光学の天体画像が即座に表示されるシステムを天文台と共同して開発することを考えているところです。

 DARTSはまだよちよち歩きでありますが、今後のあり方について、またDARTSの使い勝手などについて、comments@darts.isas.ac.jp までご意見を頂ければ幸いです。
(DARTS開発グループ)


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大型計算機に関するお知らせ

I.大型計算機の6月・7月の保守作業の予定

 ※1
M:システムメンテナンス
 ※2
VPP500/7 のクローズ処理を8:00から行いますので、それまでにバッチジョブ・TSS ジョブは終了してください。又、今回に限りイニシエータクローズは前日の20:00に行います。16日 8:00の時点で BEP 側で実行中のジョブはシステムフリーズにより保守作業を行います。

II.VPP500のデファードジョブについて

 5月の計算機運営委員会に於いて VPP500 のデファードジョブについて検討した結果、利用者の便宜と有効利用のためデータ取得を行う当分の間、CPU 料金を無料とします。実施時期は7月1日から行います。又、VX/2 についてもデファードジョブクラスとシステムフリーズについて、11月1日実施を目標に検討中です。
(関口 豊)


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編集発行:文部省宇宙科学研究所
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