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第13号 1994年11月1日発行

目次


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スーパーコンピュータとベクトル並列計算
第8回 並列(パラレル)計算機の利用ー2

 前回は二重ループのベクトルーパラレル化について説明しました。この例では各PEは(データは異なりますが)同じ演算を受け持っていました(SPREAD DO)。最初にご説明したようにVPPは分散メモリー型の計算機ですから、これら各PEの演算に必要なデータが自PEのメモリー上にあればパラレル化によってほぼ利用台数分の性能向上があります。このためには予めCOMMONやDIMENSIONを!XOCLという指示行によって、PEに分割して割り振っておくことが必要ですが、これは簡単にできます。

 これに対して、各PEに違った仕事を割り振ることも出来ます(SPREAD REGION)。つまり、1番目のPEが部屋の掃除をしている間に、2番目のPEはご飯の支度をして、3番目は洗濯をしているといった状況です。図で示すと、図1のようになります。この場合、最初の例と違って各PEの仕事量は同じではありませんから、仕事に要する時間をぴったりあわせることは難しくなりますが、それでも並列処理の効果はでてきます。注意しなければいけないのは、お互いの作業が干渉しないように仕事(演算)を割り振る点です。この場合もデータの置き場所には注意が必要です。



 図1 異なる作業の並列化(SPREAD REGION)

 この並列化のやり方はDOループを伴わないようなベクトル化できないプログラムでも有効です。各PEが独立に作業できる場合には7PEをフルに使えば1PEを利用する場合の7倍の計算ができます。(LIWという方法を利用しているのでプログラムによりますが)1PEの性能はM1800とそう変わりませんから、7つの結果が一度にでてくるのは魅力的です。VPP500の並列計算機としての特徴のみを利用していることになります。

 データが自PEにない場合でも、グローバル変数という仮想的な共通データ領域を通じて作業をすることができます。従って、絶対に自分のPEメモリーにデータがなければいけないわけではありません。しかし、計算機内ネットワークのデータ転送速度と自メモリーへアクセスする速度とはかなり違いますから、できるだけ他のPEのデータにアクセスするのは避ける必要があります。VPPの場合、他PEのデータへのアクセスの間に、演算をすることができますから、データを取りにいく時間を演算の陰にうまく隠すことも可能です。

 まとめますと、それぞれのPEが独立なデータで作業出来る場合は簡単に性能の効果がでますが、メモリー分散が必要な場合はプログラムに若干の工夫が必要となります。そのための方策に関しては富士通のSEに相談されるのがよいと思います。

 次回は最も簡単な第3の並列化についてお話しします。
(藤井 孝藏)


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衛星データ処理氈uあけぼの

 宇宙科学研究所で打ち上げた科学衛星のデータ処理の実 際について、これからシリーズで紹介していく事になりました。まずトップバッターとして、「あけぼの」に登場してもらいましょう。「あけぼの」は「オーロラ」を観測する目的で、1989年2月22日、鹿児島県内之浦から打ち上げられました。1万kmの遠地点を持つ準極軌道上から、遥か眼下に「オーロラ」の姿をのぞみながら、オーロラの原因となる領域を探っています。鹿児島(内之浦)の衛星追跡センターをはじめ、カナダのプリンスアルバート局、スエーデンのエスレンジ局、そして南極の昭和基地の合計4つのステーションで衛星のデータを取得しています。以下に少し詳しくこの様子を述べていきましょう。

(1)衛星からの生データ
 「あけぼの」衛星で1年間に取得されるデータの量は、140GB(ギガバイト)に達します。これは、宇宙科学研究所の打ち上げた科学衛星の中で最も多い部類に属します。このデータはデータ伝送回線や磁気テープを用いて、相模原キャンパス内にあるデータ格納装置(別名、SIRIUS)に登録されます。(SIRIUSについては、PLAINセンターニュース第4号(加藤輝雄氏稿)を参照下さい。)「あけぼの」研究班の面々は、このSIRIUSにあるデータをまず読みにいくことになります。

(2)衛星データ処理装置
 「あけぼの」が打ち上げられた1989年はワークステーションが市場を賑わせ始めた時期でした。何分にも高価であった事は否めませんでしたが、参加の2つの大学に、専用のデータ処理装置としてWS(ワークステーション)を設置することが出来ました。これは、オーロラからの電波の解析に威力を発揮することになりました。大方の研究者(大学院の方々も含みます)は、宇宙科学研究所の大型計算機システムを用いて、独自の方法でデータ解析を始めておりました。

(3)計算機ネットワーク
 宇宙科学研究所が、Nー1ネットワークに加入したのは数年前の事です。これによって各大学、研究所からリモートログインが可能になり、状況は大きく変わりました。当初は9、6kbpsと細い回線でしたし、大学の大型計算機が稼働している時間帯しか、リモートログインが出来ませんでした。夜間の利用、及び運用に必要な情報の伝送の目的で、JUSTーPCシステムによる接続を可能にしました。その後、ISASの学情ネットへの加入、更にはSINETへの加入と、事情は目まぐるしく変わっていきました。その結果、実質の回線レートは高まり、現在ではかなりのデータを各大学へ転送する事が可能になってます。

(4)「あけぼの」サイエンスデータベース
 オーロラの科学を研究するとき、一つの衛星観測からだけでは押えきれない事柄があり相補的な地上の観測、及び他の衛星による観測の結果と比較する必要があります。この様な意味から、「あけぼの」研究班では、公開をめざしたデータベース(サイエンスデータベース)の作成に取り掛かっています。これは、観測データをコンパクトにまとめたもので、データのみならず検索用のデータファイルも供えたものになっています。観測グループの大半は、各大学に所属している関係から、データそのものの作成は、各大学にて行って戴き、ISASにはデータ格納用のWSを備えました。WSは、インターネットに接続されており、リモートから容易にデータを転送出来ます。(インターネットについては、PLAINセンターニュース第11号(松方純氏縞)を参照下さい。)このシステムを今後は運用していき、「あけぼの」サイエンスデータベースを完成させていくことになりますが、将来はさらに大きな視点に立って、然るべきデータセンターにサブミットしたいと言う希望を「あけぼの」チームはもっています。

 「あけぼの」は打ち上げから5年半順調に観測を続け、その間、オーロラの研究に大きく貢献して来ました。GEOTAILも打ち上げられました。諸外国も、関連する衛星を続けて打ち上げています。今後、数年間、地上の観測も含めて多くの集中観測が実施されます。いよいよ、本格化してくる研究の舞台に備え、効率良いデータ処理の仕方も、更に工夫しなければならない時期になっています。
(小原 隆博)


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