PLAINセンターニュース第95号
page 1

パソコンは本当に速いのか?

藤井 孝蔵

 本センターニュースの5月号で三浦さんが紹介されているように,ギガビットを基幹とした宇宙研の計算機ネットワークの高速化が実現します.いや,この記事が出る頃にはすでに実現しているでしょう.研究上大容量のデータ転送が不可欠な方やネットワーク速度にいらいらしたことのある方にはかなりの朗報だと思います. 133.74.27系統などを利用されている方などは移行にはIPアドレス変更が必要ですが,これを機会にこの基幹LANに移られることをお奨めします.VLAN(物理的に別のネットワーク系統の一連のコンピュータを1つのサブネットグループとして認識させる)も組めるようですし,面倒さ以上にメリットがあると思います.

  さて,PLAINセンターニュースではここ数回衛星データ関連の話題が多かったので,ちょっと休憩して一般的な計算機の話題を取り上げてみましょう.宇宙研には,スーパーコンピュータ,スカラー高速演算サーバー,画像処理サーバーなど多種多様のコンピュータがあります.また個々の研究室では多数のパソコンを,私のところのようにコンピュータ負荷の高い仕事をされている研究室ではワークステーションなども利用されているでしょう.ご存じの方も多いかもしれませんが,世界で最初の汎用スーパーコンピュータはCRAY-1という製品です. 70年代終わり,およそ25年前くらいに作られました.日本では80年代のはじめから半ばにかけて,日立,富士通,NECなどから優れた国産汎用スーパーコンピュータが開発されています.これらのスーパーコンピュータはどの位の速さだったと思われますか?今みなさんが使っているパソコンに比べてどうなのでしょうか.私は持ち歩き用に1.3KgのソニーVAIO Note505SR(Pentium III 700MHz)を使っていますが,実はこのノートパソコン程度でもCRAY-1の3倍程度の実演算性能を発揮します.私たちは20年余りをかけて,デスクトップスーパーコンピュータはもとよりモバイルスーパーコンピュータを手に入れたと言っていいでしょう.宇宙研が相模原に移転した10数年前に宇宙研がレンタル所有していたスーパーコンピュータは富士通VP200といいます.このVP200は優れた製品で,当時かなり速いコンピュータでしたが,今で言うとこのVAIO Noteよりちょっと速い程度です.最近ではインテルパソコンのPentium 4 プロセッサが出回っていてクロックは1.5 GHzから2GHzに届こうとしています.インターネットなどで確認すると20-40万程度で買えますが,これらはすでにVP200よりも高い性能を示します*.ちなみに買い取り価格で言うとVP200の値段はざっとした数字で当時数億から10億円程度だったと思います.これが20万円ですから最近コンピュータメーカーが儲からないのもよくわかります(冗談です).

  コンピュータの性能は毎年倍々くらいで向上(半導体自身については18ヶ月と言われている)しています.つまり10年先には今よりさらに1000倍程度速いコンピュータが使えるようになります. 2年半後リプレース予定の宇宙研のスーパーコンピュータVPP800/12は総合性能で現在のパソコンの数十倍から100倍位の性能です.インテルが潰れなければ(?)同じくらいの性能のコンピュータは5-6年後くらい後には私たちの机の上にあることになります.

 もちろんその頃にはスーパーコンピュータ自身も更に進化しています.天体物理系のシミュレーションや宇宙輸送に関わる数値シミュレーションも,より詳細でより正確なデータを期待することになりますし,衛星データの処理量も爆発的に増えていきますから,宇宙研でもその頃はさらに高性能のコンピュータが利用されていることと思います.

  ここ数年,スーパーコンピュータの仕組みは大きく変わりつつあります.ベクトル型の計算機からSMPと呼ばれるメモリー共有型の高速スカラー計算機,さらに最近ではPCクラスターというパソコンを複数並べてネットワーク接続して利用する安価なコンピュータシステムが流行の兆しを見せています.実際に私たちの分野ではPentiumプロセッサを10数台並べるとスーパーコンピュータの1プロセッサ位の性能が出るといった報告もあります.宇宙3機関統合という話も出ていますが,今後の宇宙科学にとって有用なコンピュータはどのようなものかをみなで議論しながら選択していく必要があります.

  一方で,ソフトウェアの中身やその仕組みなども変化の兆しを見せています.国内のスーパーコンピュータを高速ネットワークで結び,それらを協調させて巨大計算や効率的なデータ処理を行おうという計画が旧文部省のスーパーSINET構想にも,旧科学技術庁が進めていたITBL(IT-based laboratory)構想にもあります.他方,机の上でふだん使っているパソコンなどは必ずしもいつも負荷がかかっているわけではありません.世界中に多数あるネットワーク上で見えるパソコンの空いている時間をかき集めて巨大なデータ処理を行おうとする壮大な計画もすでに試みられています.

 今回はコンピュータの最近の事情についてお話しました.私自身はコンピュータの専門家ではなく利用する立場です.したがって,記述に不正確な部分があるかもしれませんし,限られた字数で説明不十分な点があるかもしれません.その点はご容赦ください.

 *このデータは実際に私たちが使っている流体の数値シミュレーションプログラムを利用して実測した結果で,スーパーコンピュータ向きにプログラミングされたものです.



この号の目次へ

一般公開報告へ
0
Mail to CPISPLAINnews HOME


(40kb/ 2ページ)