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PLAINセンターニュース第94号
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ドイツ便り〜Cluster-II衛星のデータ環境について(2)

 暑い夏だそうですが皆さまいかがお過ごしですか?ドイツも7月末ぐらいから随分と暑い日もありますが、寒い日との寒暖の差が激しく身体がついていくのが大変です。祝!Cluster-II打ち上げ1週年!!ということで早くも打ち上げから1年が経ち、観測は順調に進んでいるようです。今回は先月の続きでCluster-II衛星のデータベース環境について紹介したいと思います。

Cluster Science Data System (CSDS)

 先月号の記事にも書いたようにCluster衛星には11種類の観測器が搭載されているわけですが、これらの観測器の製作はヨーロッパ中の国々で行われています。また、1つの観測器でも部分毎に複数の国の研究者が担当している場合もあり、複数の国にまたがって多数の研究機関の間でスムーズなデータ分配・交換ができる必要があります。「多数の国にまたがる」という点がヨーロッパの衛星に特有の事情で、従来は独立に各研究機関でデータベースを管理していた為に必ずしもデータの交換は簡単ではなかったようです。しかし、Cluster-II衛星程の大きなプロジェクトでは、もはや各研究機関で独自のデータ管理ができるレベルではありません。そこで、Cluster-IIプロジェクトではCluster Science Data System (CSDS)が構築されています(図1)。CSDSの役割は大きくいって2つあると言えるでしょう。(1)各観測器チーム内でのデータ交換 − 得られたデータの較正作業を円滑に進める為には、チーム内でのデータ交換やデータのバージョンを管理して行う必要があります。(2)較正済みデータの交換 − データ公開を管理することによって、チーム外の研究者がデータを利用する際に誤った使い方をすることを防いだり、各チーム間や世界中の研究者との情報交換を促進したりします。これらの役割は何もCluster-IIのデータシステムに限られたことではありませんが、4つの衛星から得られる膨大な情報をきちんと処理して初めて「時間・空間変動の分離による現象の正確な把握」というClusterの最終目標に達することができるので、この目標の実現の為には従来以上に迅速かつ効率の良いデータ管理システムが必要なのです。データセンターの実体(National Data Center)はヨーロッパの7カ国(英国、ドイツ、フランス、オーストリア、スカンジナビア、ハンガリー、オランダ(=ESOC))と米国、中国に置かれています(図2)。これらのデータセンターにはまったく同一なデータセットが保管されているので、研究者はこれらのデータセンターの最もアクセスに便利な場所からデータを取得することになります。データベースとユーザーのインターフェースはCSDS Data Management System (CDMS)と呼ばれ、インターネット(Web)ベースで構築されています(図3)。ユーザーは対話的にWebブラウザからデータをダウンロードすることができます。データセンター間はCSDS-Netと呼ばれるインターネット専用回線で結ばれており、各データセンターが担当するデータ(その国で生成されたデータ:例えばドイツのデータセンターからはEDIの電場データ)を他のセンターへ配信してお互いが常に同じデータを持つような取り決めになっています。CDMSから公開されるデータセットは次の3種類です。

(1) Prime Parameter Database (PPDB): 衛星のスピン周期(4秒)で平均化された4衛星の全てのデータセット。このデータセットはCluster-IIのプロジェクト関係者しかアクセスできない。また、このデータセットのデータは観測責任者(=PI)の許可無しに発表に利用できない。
(2) Summary Parameter Database (SPDB): 1分平均化された1つの衛星のみのデータセット。(衛星の位置情報、姿勢情報は含む)このデータセットは誰でもアクセスできる。また、このデータセットに含まれるデータはPIの許可無しでも発表に利用できる。
(3) FGM Processing Support Data Set (FGM-PSDS): FGMから得られる磁場データをPPDBやSPDBの作成に必要な場合はこれを参照する。4衛星の1秒平均値。PPDB、SPDBの作成以外の目的には使用できない。

 その他に、Summary Parameter Plots という6時間毎のSPDBデータのプロットがCDMSから取得することができます。。このプロットは全部で4枚からなるので、1日に16枚のプロットが作成されることになります。CSDSから公開されているデータセットは全て共通データフォーマット(Common Data Format (CDF))で作成されており、標準的なツールで読み込むことが可能です。

 リストをご覧になってお分かりのようにこれらのデータの他にも、より情報量の多いデータセットが存在します。これより「生」データに近い部分に関しては各PIの下にデータが管理されており、残念ながら観測器チーム外の人はアクセスすることができません。 Geotail衛星(ISTPプロジェクト)の場合のデータ管理の規則と比べて見ると、(2)のSPDBがISTP−Key Parameterと呼ばれているものに対応しますが、ISTP−Key Parameterの場合は論文発表には使用できないという違いがあります。フルスペックのデータ(例えば、プラズマの分布関数など)は原則として観測器チーム内の研究者に使用が限られている点は従来と変わりがなく、そのようなデータが見たい場合はPIにコンタクトをとる必要があります。(*Geotail衛星の磁場・粒子データに関してはDARTSからほぼフルスペックのデータが公開される予定です。)話が前後しますが、ESOCで受信された衛星のテレメトリーデータはCD-ROM化されて各データセンターと各観測機器チームに送られています。したがって、各国のデータセンターでは全てのテレメトリーデータのデータベースともなっており、各観測器チーム内でのデータ較正作業にもCSDSのシステムが利用されます。各研究者はCSDSを利用することによって良く管理されたデータにアクセスすることができます。

 一方、観測データとは別に観測を支援する目的として予測軌道や関連する予測情報がJSOCから提供されCDMSから閲覧できるようになっています。具体的には (1) Identified Scientific Events (ISE), (2) Predicted Scientific Events (PSD), (3) Predicted Magnetic Position (PMP), (4) Predicted Solar Cycle Trends (PCY), (5) Predicted Geometric Positions (PGP) の5種類のデータです。観測チームはこの情報をもとに観測計画を立てる際の参考にしたりします。これに関連して予測軌道をWeb上で3次元的に表示するツール(Cluster-II Locator)も公開されています(図4)。CSDSのデータの流れを図にすると図5のようになります。


図1: Cluster ScienceData System
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図2:CSDS Ring
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図3:データセンターのWebページ CSMS
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図4: Cluster-II Locator
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図6: Quick Look データ
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図5:CSDSのデータの流れ

 各国のデータセンターは管理するデータセットはまったく同じになるように取り決められていますが、CDMSのインターフェース以外に独自のサービスを追加することは自由のようです。例えば、英国のデータセンターではSummary PlotをWeb上で直接閲覧できるツールを用意していて(他のセンターはファイルのみ)、多くの研究者に利用されているようです(図6)。以上に見てきたようにCSDSのシステムは非常に良く整備されており、水星探査計画にも十分そのまま応用できるように思えます。形式上は宇宙研のデータセンター(=DARTS)がCSDSのノードの1つとして加わることになるかと思いますが、英国のセンターの例のように、宇宙研として独自の機能を追加提供することによってDARTSとしての存在を主張することもできるでしょう。


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