PLAINセンターニュース第207号
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Apollo 月震計のデータアーカイブと公開システムの開発

山本 幸生
宇宙科学情報解析研究系


 Apollo 計画は米国が実施した月探査プログラムです。Apollo 11 号以降の有人探査が注目される中で、Apollo Lunar Surface Experiments Package (ALSEP;アルセップ) と呼ばれる科学実験が行われていました。Apollo 計画の素晴らしいところは、有人探査プログラムに加えて、科学的に有意義なデータを取得し、約 40 年を経た現在においても、新しい技術を利用して新しい発見がなされている点です。こうした成果の背景には、データが利用可能な状態で保存されているという、データアーカイブの重要性を見ることができます。 Apollo月震データは現在データベース化を進めており、今年度末にDARTSからの公開を目指しています。このシステムが完成することにより、今までよりも格段に少ない労力でデータの閲覧・取得が可能となりますので、公開時には多くの研究者に活用して頂きたいと思っています。

 ALSEP の中でも、Apollo 11 号以降から 16 号まで搭載され続けたのは月震計です。月の地震を計測するために、地震計のデータは月面から直接地球へと送信され続けました。サンプリングレートは 1 秒以下で、640bit/sec で約 8 年間連続的に記録しています。当時のコンピュータの処理能力・ストレージ容量を考えると、気が遠くなるほど巨大なデータであることが分かります。これを処理したのが現在テキサス大学におられる中村教授のチームであり、実際にデータに触れることで、その完成度の高さに驚かされます。

 Apollo 計画当時、生データは 14 トラックのテープに記録され、各観測機器チームには 7 トラック (6bit データ+1bit パリティ) のテープで配布されました。その後 8bit コンピュータによる 9 トラックのテープへ移行され、約 20 年前に 8mm DAT テープへと複製されました。現在は RAID ハードディスクに保存されています。近年は幸いなことに、この「保存媒体」を気にする必要性が減少しています。というのも、惑星探査で得られるデータ量に比較して、保存可能なストレージの容量が増大し、安価に購入できるようになったためです。テープのリードエラーなどは気にする必要はなく、バックアップコピーを分散させて保持することができます。

 Apollo 月震計のデータは、約 20 年前から宇宙科学研究所でも保有しています。これは当時 DAT テープへの移行を、テキサス大学と宇宙科学研究所が協力して行ったからです。熱流量や他のデータの一部が既に失われアクセスできない状態を考えると、現代でも読み込み可能な装置 (DAT) へと移行した点については、先見の明があったと言えます。

 この宇宙科学研究所で保有していた月震データを、誰でもウェブ経由でアクセス可能なように、システムを構築しようとしています。多くの論文が排出される中で、実際のデータを見るには、あまりにも手間が掛り過ぎるのが理由の一旦です。現代の技術を用いれば、過去の論文のデータを検索し可視化することは容易です。このようなシステム開発ができるのも、私たちの手元に直接アクセス可能なデータがあるからです。

 Apollo 月震データのデータベース化を進めるに当たり、細かい点で不明な箇所が多々ありました。百聞は一見にしかずで、実際にデータアーカイブを担当したテキサス大学の中村教授の下を訪ねることにしました。不明な点を全て明らかにした上で、システムを構築する必要があるためです。

 テキサス大学はテキサス州オースティンにあります。オースティンのダウンタウンに構える大学から、北に数 km 向かうと、研究室のある Pickle Research Campus があります。ここで約 2 週間の間、Apollo 月震データと、それに加えて一緒にアーカイブされている Viking データに関する資料を発掘してきました。テキサス大学に行く前にリストアップした疑問点は、中村教授とのディスカッションを通して、全て解決することができました。

 Apollo 月震データは現在データベース化を進めており、今年度末に DARTS からの公開を目指しています。このシステムが完成することにより、今までよりも格段に少ない労力でデータの閲覧・取得が可能となりますので、公開時には多くの研究者に活用して頂きたいと思っています。


中村教授に見せて頂いた磁気テープ

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