PLAINニュース第203号
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小型科学衛星「れいめい」(INDEX)運用システムの現状について

永松 弘行 (科学衛星運用・データ利用センター 衛星運用グループ)

1. はじめに

 「れいめい」(INDEX : INnovative-technology Demonstration EXperiment) は宇宙科学研究所が開発した小型科学衛星であり、オーロラ観測と新規衛星技術の軌道上実証を目的としています。「れいめい」は 2005年 8月 24日、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、ドニエプルロケットによって、光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS) のピギーバッグ衛星として打ち上げられました。去る 2010年 8月 24日、打ち上げより 5年が経過し、現在も軌道上にて順調に稼働しています。図 1に「れいめい」フライトモデルの写真を示します。


図1 「れいめい」フライトモデル

 本稿では「れいめい」地上局の概要ならびに現在の運用状況を紹介いたします。

2.「れいめい」地上局

 「れいめい」は専用地上局を宇宙科学研究所相模原キャンパス内に保有しており、日常の運用に用いています。衛星ミッションにとって、搭載機器の高機能化と同様、地上局の高機能化も重要であり、数多くの新規技術や工夫が求められます。そこで「れいめい」地上局は、産業レベルの PC を用いた地上局による運用を開発当初からミッションの一部として捉え、ISAS/JAXA 教職員、学生、ベンチャーハード/ソフト開発者の協力で、インハウス的手法で開発を行いました。

2.1 地上局のハードウェア構成

 地上局の概略を図2に示します。


図2 「れいめい」地上局の概略

運用系 PC は一部を除き Windows OS が稼働する産業レベル品です。次に示す PC より構成されています。すなわち、運用者がコマンドを送信するコマンド PC、衛星からダウンリンクされたテレメトリデータを運用系に取り込むテレメ PC、運用者が衛星の状態を監視するために用いる QL (Quick Look) - PC、テレメトリデータをコマンド PC や QL-PC へ配布するサーバ PC、運用計画コマンド (後述の SOP) を作成・検証するための運用計画PC、軌道データサーバおよびデータ分配蓄積の役割を担うゲートウェイ、アンテナ (図3、φ3m、アップリンク/ダウンリンクとも S バンド対応) のサーボ制御を行うアンテナ制御 PC です。


図3 相模原局φ3mアンテナ

試験運用システムは、「れいめい」搭載計算機のプロトタイプを利用したもので、スイッチによってアンテナと切り替えて使用します。新しい観測計画の事前検証で威力を発揮します。

2.2 地上局のソフトウェア開発環境および観測計画の立案

 ソフトウェア開発環境としては一般に広く利用されているものを活用しています。例えば、XML (eXtensible Markup Language) ベースの SOP (Satellite Operation Procedure) によるコマンドの自動生成、CVS (Concurrent Version System) によるソフトウェアのバージョン管理などです。XML ベースの SOP は、個々のサブシステム担当者が作成した運用手順ライブラリ (procedure libraries) を適宜組み合わせてコマンドを生成する仕組みを提供します。

 観測計画に基づく SOP の作成は「れいめい」運用計画立案の要です。その手順は、以下のようになります。図4に運用計画立案から運用までの流れをまとめます。


図4 運用計画立案から運用計画までの流れ(イメージ)

(1) 理学観測要求 (日時、観測モード) は、宇宙研や遠隔地 (他大学など) の理学ユーザより出されます。

(2) 観測要求を統合し、実際の運用計画立案ファイルを作成する作業は、理学ユーザの宇宙研メンバが行います。観測要求の優先順位は、以下の通りです。

  1. キャンペーン観測:「れいめい」と地上オーロラ観測レーダやカメラ、あるいは他衛星との共同観測で、観測時刻が一意に決定します。
  2. 「れいめい」単独での粒子センサ・カメラによる同時観測:キャンペーン観測の空き時間に設定します。
  3. 磁力線追尾観測、粒子センサまたはカメラによる単独観測など:1、2の空き時間に設定します。
  4. 工学実験:GPS 受信機などを用いた工学実験、SAP 評価のための電源系試験などを、要求に応じて運用計画に取り入れます。

(3) 運用手順ライブラリ群より観測要求に応じて観測モードを選び、SOP および姿勢変更手順を作成します。

(4) コマンドの安全性を確認します。

  1. 運用計画の妥当性の検証は、姿勢系ソフトウェアシミュレーションにより行います。結果が NG の場合、(3) の手順に戻り、観測計画を見直します。
  2. 初めて実施するコマンドに対しては、試験運用システムを用い、OBC ハードウェアによる検証を行います。

(5) 以上で問題がなければ、作成した SOP で運用を行います。

 なお、得られたテレメトリデータの蓄積、処理は「れいめい」独自のシステムを構築し、日々の運用、データ解析に役立てています。宇宙研外のユーザもアクセス可能です。処理済みの理学観測データは DARTS にて公開されています (図 5)。


図5 「れいめい」のデータフロー概略

 「れいめい」の科学目的について本稿では具体的には触れませんが、ご興味のある方は、PLAIN News 192号 (http://www.isas.jaxa.jp/docs/PLAINnews/192_contents/192_1.html) をご覧いただければ幸いです。

3. 運用の現状

 2010 年 9 月現在、「れいめい」は 2. で紹介した専用地上局にて運用を継続しています。定常運用の体制は以下の通りです

(1) ISAS/JAXA 教職員、学生を含めた1〜3名の体制で運用を行っています (図 6)。


図6 相模原局での定常運用の様子

(2) 定常運用には、以下の地上局を活用しています。3、4 はダウンリンク専用局で、一日あたりの可視はいずれの局も最大 15 パスです。

  1. 相模原局 (SCA φ3m):コマンドアップリンク (姿勢制御/タイムラインコマンド) およびテレメトリデータのダウンリンクを行います。一日あたりの可視は 4〜5 パスです。
  2. 内之浦宇宙空間観測所 (USC φ20m):相模原局のパックアップ局です。また、打ち上げ後の初期運用は本局にて行いました。
  3. ノルウェー、スバルバード (SVL φ13m×2、φ10m)
  4. 南極昭和基地、多目的アンテナ (SYOφ11m)

(3) 定常運用の一年単位での基本的なスケジュールは、以下の通りです。

  1. 10 月中旬〜5 月上旬:北極域でのオーロラ観測、低緯度域でのリム観測など
  2. 5 月中旬〜10 月上旬:南極域でのオーロラ観測、低緯度域でのリム観測など
  3. 不定期:SAP 評価試験 (電源系試験)、姿勢系メンテナンス運用など

(4) 定常運用の一週間単位での基本的なスケジュールは、以下の通りです。

  1. 月、水、金昼可視:観測計画をアップリンクします。スバルバード、昭和基地のダウンリンク計画を含みます。
  2. 火、木、土昼可視および平日夜可視:観測データのダウンリンクを行います。

4. 自動運用の試み

 相模原局では現在、定常運用における運用者の負担軽減を目的に、自動運用の実験を行っています。ただし、運用時には無線主任技術者が監視する必要があります。

 従来の運用システムでは、運用者は運用系操作卓を操作する (例えばキーボードやマウスを操作したり、画面を見たりする) ことでコマンド送信、テレメトリ受信、アンテナ操作、衛星状態監視、緊急時対応、ログ記録などを行います。自動運用システムでは、「スケジューラ」と呼ぶソフトウェアが、SOP より生成されるスケジュールファイルに基づいて、コマンド送信、テレメトリ受信、アンテナ操作など運用シーケンス全体を管理・統括・制御し、運用者の代役を果たします。図 7 に、自動運用システムの概略を示します。


図7 「れいめい」地上局の自動化

 自動運用システムを構築する際、相模原局のつぎの特長を活かしました。(1) 衛星運用に必要な設備一式が相模原キャンパス内にすべて揃っている。(2) 他の科学衛星の運用と干渉しない。(3) ある程度自動化対応したシステムである。既存の設備をほぼそのまま使い、ソフトウェアのみの改修で、できる限りシンプルなシステム構成での自動運用を目指しています。スケジューラの設計方針は、「現行運用系とは独立性が高く、開発やデバッグ、ユーザによる機能拡張、適用範囲の拡大が容易な、見通しのよいシステムとする」ことです。そのため、スケジューラから運用系の機能を利用するための通信窓口として自動化 API (Application Program Interface) を作りました。スケジューラは自動化 API を通じて運用系の機能を利用し、運用シーケンス全体を制御します。自動化APIを作ることで、相模原局の従来の運用系を自動化のために直接改修する必要はなくなり、スケジューラを新たに追加することによって自動運用を実現することができます。

 2010年 4月より観測データのダウンリンクを対象に「れいめい」実機による自動運用実験を定期的に行っています。実験の結果は良好で、自動運用実現へ向けての目処が立ったところです。最終的には定常運用のシーケンスすべてを自動化し、定常運用のさらなる負担軽減を目指しています。緊急時のリモート運用にも対応してゆく予定です。

5. おわりに

 小型科学衛星「れいめい」は宇宙科学研究所が開発し、現在も同相模原キャンパスの専用地上局にて運用を継続しています。本稿では、「れいめい」の地上局に的を絞り、その概要および日常の運用の様子を紹介させていただきました。

 他の科学衛星の運用とは少し違う雰囲気があると思います。例えば、定常運用にはメーカの方が参加されることはなく、教職員と学生が交代制で行います。また、運用局自体も非常にコンパクトで、専用の設備一式が相模原キャンパスに揃っています。可視と可視の間に観測要求の変更などがあった場合も比較的早く対応できる (次の可視でコマンド送信可能) など、非常に軽快なフットワークで運用している点も特徴的かと思います。テレメトリデータの処理も「れいめい」独自のシステムで行っています。最近では運用自動化の実験も行っています。このような雰囲気を多少とも感じていただければ、また、何かのご参考になれば幸いです。

謝辞

 日頃からご指導ご鞭撻頂いております、「れいめい」開発メンバ、運用メンバの皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。



(3.8MB/ 4 pages)

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