PLAINニュース第201号
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「あかり」全天サーベイのカタログ・アーカイブ・サーバ (AKARI-CAS)
−− 待望の新サービスの使い方を日本語で解説 !!

山内 千里
宇宙科学情報解析研究系

1. 「あかり」点源カタログとは

 2010 年 3 月 30 日に,「あかり」衛星の全天サーベイによる約 130 万天体におよぶ点源カタログが,一般に公開されました.このカタログは、全天の 96 %以上をカバーし,近・中間赤外線カメラ (IRC) によって検出された約 87 万天体のカタログと遠赤外線サーベイヤー (FIS) が観測した約 43 万天体のカタログから構成されます.この新しい点源カタログは天体総数だけでなく,解像度・感度・波長域においても従来より優れており,20 年以上にわたって最も基礎的な赤外線天体カタログとして使われてきた IRAS カタログを更新するものです.今後の天文学の進展に大きく寄与する事が約束されているといっても過言ではない,日本発の重要な天文データベースです.

2. AKARI-CASとは

 「あかり」カタログ・アーカイブ・サーバ (AKARI-CAS) は,「あかり」関連のカタログを用いた様々な研究・開発の基盤となるWebサービスです.このサービスは,筆者が中心となって新規に開発し,C-SODAが運営する DARTS にて公開するものです.

 主な機能として,座標による検索,SQL 検索,検索結果からリンクされるビジュアルツールがあり,検索結果を表示するだけでなく,世界中の代表的な天文データ公開サービスに対する動的リンクが利用できるようになっています.ほとんどのサービスは,Web ブラウザから利用できますが,研究者のローカルコマンドから利用するためのツールも提供し,幅広い研究テーマ・研究ステージで役立つように開発しました.

 AKARI-CAS は,全天サーベイのカタログの一般公開と同時にサービスを開始しました.これまで,世界各国から 10 万件程度のアクセスがありました.下記URLから,テキストブラウザを含む,ほとんどの Web ブラウザで利用できます.
 http://darts.isas.jaxa.jp/astro/akari/cas.html

3. 待望の新サービス開始 !!

 先月,「あかり」カタログと,ほとんどの他天体カタログとを,瞬時に座標マッチアップしてくれる,驚きの新サービス「Match-up AKARI catalogues with Cached SIMBAD/NED catalogs」を開始しました.

 例えば,「NGC」「2MASS」「SDSS」カタログといった他カタログとの座標マッチアップを行ないたい場合,従来はユーザが座標リストを用意して検索サービスを利用したり,ローカルのツールで各自で行なう必要がありました.しかし,この新サービスを使えば,ユーザが座標リストを用意するまでもなく,簡単な条件入力とボタン 1 つで一瞬にしてほとんどの他天体カタログと「あかり」カタログとをマッチアップし,その結果を取得できます.

 このサービスには,もう 1 つの使い方もあります.それは天体の種別で検索する方法です.例えば,「QSO」すべて,「AGN」すべてを検索,といった使い方です.

 この PLAIN News では,この新サービスを中心に AKARI-CAS を紹介していきます.

4. 新サービス「Match-up AKARI catalogues with Cached SIMBAD/NED catalogs」の使い方

 AKARI-CAS のトップページの左メニューの「Match-up with SIMBAD/NED」を選びます.図 1 は,この新サービスをブラウザでアクセスした時のスクリーンショットです.


図1 「Match-up AKARI catalogues with Cached SIMBAD/NED catalogs」の条件入力ページ

 基本的な使い方は,次の 5 ステップです.

  1. ユーザが必要とする他カタログが,SIMBAD か NED のどちらにあるのかを選択  このサービスは,あらかじめ「あかり」カタログの全天体について SIMBAD と NED を利用して座標マッチアップを実施し,その結果をデータベースに登録する事により,実現しています.必要とする他カタログが SIMBAD,NED のどちらに登録されているかをあらかじめ調べておく必要があります.よくわからない場合は,銀河系内の天体なら SIMBAD,系外天体なら NED を選べば良いでしょう.
  2. 各天体カタログでの天体名の文字列パターンと,天体種別を示す文字列パターンをセット  SDSS カタログでは天体名は「SDSS J000113.44-005934.5」のようになりますから,入力すべき文字列は「SDSS %」とします.この「%」はワイルドカードで,UNIX 系 OS のコマンドシェルでよく利用する「*」と同じ働きをします (0 文字以上の任意の文字にマッチ).
  3. マッチアップ時の検索半径を指定
  4. 「あかり」カタログ種別 (FIS or IRC) を選択
  5. Submit ボタンをクリック

 では,いくつか例を示してみましょう.図 2 に例 1 の場合の結果を示します.


図2 (例 1) の検索結果.MACHOカタログと「あかり」カタログを統合している.

(例 1) MACHO カタログとマッチアップしたい場合

  • 「SIMBAD Cache」を選択.
  • Pattern for object name に「MACHO %」をセット
  • Pattern for object typeの入力欄を消去

(例 2) SDSS カタログの一般の銀河とマッチアップしたい場合

  • 「NED Cache」を選択.
  • Pattern for object name に「SDSS %」をセット
  • Pattern for object type に「G」をセット

(例 3) 既知のクェーサーすべてを探したい場合

  • 「NED Cache」を選択.
  • Pattern for object name に「%」をセット
  • Pattern for object type に「QSO」をセット

 例 2 や例 3 の場合,天体種別を示す文字列の定義について,あらかじめ知っておく必要があります.これについては,次の URL で調べる事ができます.

SIMBAD : http://simbad.u-strasbg.fr/simbad/sim-display?data=otypes

NED : http://nedwww.ipac.caltech.edu/help/faq5.html#5k

 なお,SIMBAD の場合「Radio, IR, Red, Blue, UV, X, gamma」のグループにある種別文字列は,天体種別が特定できなかった場合につけられるものです.したがってこれらを指定して検索しても,望む結果を得る事はできないので注意してください.

5. ユーザのオリジナルのカタログとマッチアップしたい場合

 オリジナルの天体カタログの場合は,まず,天体カタログをテキストファイルに保存します.この時,カラムは「天体名」「経度」「緯度」の順でスペース区切りとします.経度と緯度は,J2000,B1950,Galactic,Ecliptic のいずれかで用意し,表記は degree 単位の実数でも「xx:xx:xx.x」形式でもかまいません.

 AKARI-CAS のトップページの左メニューの「Object Cross-ID」を選び,用意したテキストファイルを指定し,検索条件をセットして「Submit」をクリックします.

6. 任意の検索結果に,SIMBAD/NED の情報等を付加することも可能

 AKARI-CAS の座標検索や,5.で述べたような Cross-ID 検索の結果に対して,SIMBAD または NED による情報を付加する事も可能です.

 また,AKARI-CAS は,RC3,IRAS-PSC,IRAS-FSC カタログもデータベースに持っており,これらと「あかり」カタログとをマッチアップさせるといった事も可能です.

 ユーザがこのような検索を行なうには,現状では SQL ステートメントを直打ちする必要がありますが,SQL の基本を理解し,AKARI-CAS のテーブル・ビュー構造を理解していれば難しい事ではありません.

 このように,AKARI-CAS は,「あかり」カタログだけでなく,関係する重要な天体情報をデータベースに持つ事により,AKARI-CAS だけで研究の場面に応じて自分専用カタログを柔軟に作成できるようになっているのです.

 8月19日(木),20日(金) に国立天文台の大セミナー室にて「光赤天連シンポジウム」が開かれます.筆者はここで少々お話をする事になっていますので,このようなやや高度な使い方について取り上げる事になるかもしれません.興味がある方はぜひ参加してください.

7. おわりに

 AKARI-CAS は,簡単な検索から高度な検索まで,幅広い研究者ニーズに応えるべく設計された,世界でも珍しいタイプの天体カタログ検索サイトです.もちろん,AKARI-CAS を使いこなすには,SQL についてのある程度の知識の習得が必要です.AKARI-CAS ではユーザが容易に SQL を習得できるよう工夫していますが,難しいと思われる方が少なくないかもしれません.

 SQL の知識はアーカイブサイエンス研究にとって非常に強力な武器であり,検索だけなら習得は難しくないという事をどのようにして伝えていくか.それが AKARI-CAS にとって,今後の課題の 1 つです.



(3.5MB/ 2 pages)

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