PLAINニュース第199号
Page 1

JAXA 科学衛星データのオープンラボへの応用

三澤 純子(有限会社エム・ティ・プランニング/宇宙オープンラボ ユニットリーダ

 

1. はじめに

 「宇宙オープンラボ」での、JAXA の科学衛星データの利用についてご紹介いたします。宇宙オープンラボとは、宇宙をテーマにした新しいビジネスや技術開発に取り組む民間と JAXA との共同研究制度です (http://aerospacebiz.jaxa.jp/openlab)。

 筆者は、コンテンツ制作や展示コーナーなどの企画・デザインを行っており、宇宙オープンラボにおいて、「科学衛星データを視覚化し高速表示するウェブシステムの研究開発・インターフェースデザインならびに応用分野開発」というテーマで、JAXAの皆様とユニットをつくり、共同研究を行ってきました。これまでに、「すざく」や「かぐや」が取得したデータを利用したウェブ制作や展示物の試作開発に取り組んできました。

 科学衛星データの公開サイトは、主に宇宙科学の研究者向けに作られていますが、層を広げて、一般の方々が、科学衛星データを目にし、宇宙科学研究の先端に触れることができるようなインタフェースをもった応用分野開発をめざしています。これまでの2年間で行った共同研究の一端をご紹介いたします。

2.「すざく」のデータを利用した取り組み

 最初に、X 線天文衛星「すざく」のデータに取り組みました。すでに JAXA 宇宙科学研究所の海老沢先生が DARTS で「UDON (Universe via DARTS ON-line)」という名前のプロジェクトを開始されており、「すざく」のカラー画像を表示できるようにしていました。研究者の方々が画像の次に知りたいことは、エネルギースペクトルやライトカーブだということで、画像上で領域を指定してエネルギースペクトルやライトカーブを抽出するプログラムを作り、UDON に実装しました。


図1.UDON での領域指定

参考:「今月の DARTS」 (2008年8月) UDON は好きですか? http://darts.jaxa.jp/month/200808/200808.html.ja

 研究者の方々が、スペクトルやライトカーブを元に天体の研究をされている様子を、研究者以外の方々にも体験していただくために、UDON への入口となるウェブサイトを作りました。それが、「X 線で見た宇宙」というウェブサイトです。X 線衛星 ROSAT が取得した全天画像を表示し、その上に「すざく」の観測地点をプロットしました。観測地点は、「ブラックホール」や「超新星残がい」など、天体の種類によって分別しました。「すざく」の画像とリンクして、UDON の該当ページに飛ばしています。スペクトルやライトカーブの簡易解析も体験してもらい、宇宙科学研究の一端をのぞいてもらおうという試みです。


図2.「X 線で見た宇宙」ウェブサイト

参考: 「X 線で見た宇宙」 http://mt-lab.com/universe/index.html

3.「かぐや (SELENE)」のデータを利用した取り組み

 「かぐや」のデータを利用して、「月の歩き方」というウェブサイトを作りました。月全体を世界地図のように展開し、好きな場所を拡大縮小できて、クレータや海などをさわると「かぐや」が撮影した映像やデータ、月の地名の由来になった科学者のプロフィールなどを見ることができます。こちらは「かぐや」の記念イベントや、日本科学未来館のお月見イベントなどで展示を行いました。テーブル型の映像装置には、タッチパネルが搭載されており、月面上のポイントをタッチすると、説明を見ることができます。テーブルのまわりに集まった人々が、互いに質問したり、説明したりする姿も見受けられ、対話を通して、月についての理解を深めていく様子が見られました。子ども達も楽しんでくれました。


図3 「月の歩き方」ウェブサイトと展示の様子

参考:「月の歩き方」ウェブサイト http://mt-lab.com/universe/moon.html

 2009 年に「かぐや」に搭載されたレーザ高度計の観測データを元に、月の地形データが完成しました。地形データを利用して、立体の凸凹月球儀を試作しました。直径約 900ミリの月球儀の中には、RFID タグを仕込み、美術館などの展示案内システムとして開発されていた小型携帯端末を利用して、月の情報を探ることができる「MOON SCOPE」を開発しました。小型携帯端末は、月のクレータに仕込んだ RFID タグに反応し、「かぐや」の観測データなど、クレータの情報を表示できるようにしました。「かぐや」が、2009年 6月に運用を終えて月に還ったことを記念したイベント「Fly me to the Moon in AKIBA」で初展示を行いました。その後、いくつかの展示を行い、2010 年 3月に、浜松科学館での常設展示が実現しました。


図4.月の案内システム MOON SCOPE

参考:浜松科学館 http://www.hamamatsu-kagakukan.jp/

4.今後の展開

 宇宙オープンラボでの活動は残すところ、あと1年。この間に、科学衛星データを利用したウェブサイトの充実を図り、一般の方々が宇宙科学研究の先端にふれることができるようなシステムを構築していきたいと思います。「あかり」や「MAXI」「すばる」の公開データも加えていきたいと思います。

 科学衛星データの見方は難しい部分が多々あります。文章やイラスト、映像による解説なども加えながら、宇宙の理解が広がっていけるよう努力したいと思います。そのためには、宇宙科学の研究者と、デザイナーやクリエイターが直接やりとりできる環境が重要だと考えています。現在、国立天文台と三鷹市が連携して、宇宙映像を利用する人材育成プログラム「宇宙映像利用による科学文化形成ユニット」を実施しています。筆者もこのプログラムに参加し、宇宙に興味のある多くのクリエイターとネットワークをつくることができました。今後は、研究者の方々とクリエイターが直接対話しながら、解説素材をつくっていく機会を増やしていきたいと思います。

 また、宇宙オープンラボでの研究成果として、全国の科学館やプラネタリウム施設などへの展示提案を行っていきたいと考えています。

参考:平成 21年度 宇宙科学情報解析シンポジウムでの発表資料「宇宙オープンラボと宇宙科学データの見せる化」http://www.isas.jaxa.jp/docs/PLAINnews/plainSympo21/openlabo.pdf

5.おわりに

 宇宙オープンラボに参加し、研究者の方々と直接お話しながら、データを作っていくことを、非常に楽しく感じました。今後も宇宙のお仕事に関わっていきたいと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。



(2.6MB/ 2 pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME