PLAINニュース第195号
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MAXIによるリアルタイム観測データ公開

三原 建弘
理化学研究所

1.MAXI(マキシ)

 MAXI とは Monitor of All-sky X-ray Image (全天 X 線監視装置) の略称です。JAXA による国際宇宙ステーション (ISS) きぼう船外実験装置のひとつであり、同様の観測装置として SMILES, SEDA があります。MAXI は大面積の比例計数管および CCD を用いたスリットカメラにより全天を 90分ごとに走査する史上最高感度の全天 X 線観測装置です。数年にわたり銀河系内天体からクエーサーなどの銀河系外の天体に至るまで、全天の X 線天体の強度変化を監視します。理研より提案された MAXI は、昨年 2009年 7月16日にスペースシャトル・エンデバー号で打ち上げられました。折りしも若田宇宙飛行士が ISS に滞在中であり、同飛行士によるロボットアームの操作で船外実験プラットフォームに取り付けられました(ISAS ニュース 2009年 8月号、打ち上げ記事「激動する宇宙が見えてくる」)。ISS のいいところは観測装置の宇宙での様子を実際に見られることかもしれません。打ち上げや取り付けの様子は NASA TV で生放映され、深夜私は自宅からインターネット映像に見入りました。雑誌ニュートン 2009年 10月号 99ページには軌道上の MAXI の写真が載っています。真空中の写真は実に鮮明でまるで CG のようです。ISAS ニュース 11月号ではファーストライト*1・初観測の記事が載っています。PLAIN News の読者なら既読の方も多いでしょう。11月26日には、全天画像取得のプレスリリース*2を行いました。2009年 12月15日には理研からデータ公開を開始し*3、2010年 1月13日には宇宙開発委員会に報告*4を行いました。MAXI について詳しくはこれらの記事を参照してください。

2.データ公開

 MAXI の目的は「21世紀の X 線カタログ作り」と「X 線新星のアラート発行」です。機上からのデータ伝送と処理については PLAIN ニュース2009年 3月号に説明記事があります*5 。その一環として GSC (ガススリットカメラ) 装置で観測し処理・較正した「日々の X 線全天画像とX線天体の光度曲線」を MAXI ホームページ http://maxi.riken.jp で公開しています(図1)。現在トップ画面に表示しているのは 11月にプレスリリースした2.5ヶ月積分の全天 X 線画像で、約200個の天体が写っています。


図1.MAXIホームページ(http://maxi.riken.jp/

 MAXI ホームページには 2009年 8月15日から最新のデータまでが公開されています。公開しているデータは、毎日の全天画像と、事前に選択した天体の光度曲線・周辺画像です。選択天体は明るいものや注目されている天体から選び、現在約 100 個です。今後 1000 個に向け徐々に増やしていく予定です。

 データの閲覧とダウンロードは、ホームページ上でどなたでも行うことができます。専門家向けには速報メールも用意しています。ホームページのメニューから「Mailing List」を選択し、メールアドレスを登録することで、興味あるカデゴリー天体が増光した時に、速報がメールで届く仕組みになっています。現在は、新星発見システム(ノバサーチ)からの自動アラートはチーム内に配信され、人間の目でチェックしたあとに外部に流しています。ゆくゆくは信頼度を上げ、外部にも突発天体の発見後1分以内に自動速報できるように改良していきます。

3.MAXIホームページ(トップページ、図1)

 データはすべてメニューの「Data Products」の下にありますが、トップページに以下のショートカットが用意されています。

1) Source list of public data
 データの用意されている天体のリストが表示されます。アルファベット順に表示され、目的の天体をクリックすると、その天体のページに飛びます。
 左欄上のREADMEには使用上の注意が書かれています。

2) Light curves of public data
 データの用意されている天体の光度曲線一覧を見ることができます。天体の数が多いとページ内に表示しきれないので、カテゴリを選んでから表示します。たとえば Binary-pulsar (連星X線パルサー)を選んで submit を押すと、そのカテゴリ(現在 22 天体)の光度曲線が表示されます。連星X線パルサーには Be 再帰トランジェント (Be 型星との連星で何年もたってから再び明るくなる)が多く 2S1417-624 や A0535+262 などは去年とても明るくなったことが分かります。また軌道周期 (パルサーが連星相手の恒星の周りを回る周期。EXO2030+375 では 46日)や降着円盤などの超軌道周期(SMC X-1 の 60日や Her X-1 の 35日)が見られ、多彩な光度変化が楽しめます。名前や光度曲線をクリックするとその天体のページに飛びます。
 逆に SNR (超新星残骸) や Cluster of galaxies (銀河団) では変動がないことがわかります。実際はこれらにおいてもデータ点が強弱に散らばっています。これはバックグラウンドが正しく差し引かれていなかったり、天体を ISS の太陽電池パネルが隠したりするためです。これらの影響は一通り処理していますが、実データに対してはまだ完璧ではないようです。データを見ながら改良しているところです。

3) Clickable All-sky map (図2)
 ここでは毎日の全天画像が見られます。全天を世界地図のように展開してプロットしてあります。ここでは銀河座標を用いています。つまり赤道には天の川をとり、中心には銀河系の中心方向(いて座)をとっています。銀河中心方向に明るい星が集中していることがわかります。また銀河赤道上にも明るい星が分布していることがわかります。銀経でいうと中心が0度で左に行くに従い増えて行き、左端が 180度です。90度あたりに銀河面上に2つ、左下に1つ、合計 3つの星が目立ちます。これは白鳥座の3兄弟、右から Cyg X-1、X-3、X-2です。Cyg X-1 は最初に見つかったブラックホールです。左端からは右端につながりますがこのあたりが銀河中心と反対の方向になります。右端の明るい天体はかに星雲。1054 年の超新星の残骸です。1000 年前の空にはこのX線源は存在しなかったはずです。そこから銀河中心に向けて戻っていくと 290 度付近にも明るい星があります。Cen X-3 です。このあたり (ケンタウルス座) は南半球の星になり日本からは見ることはできません。MAXI は地球の周りをくるくる回っていますので、北半球、南半球を問わず全天を見ることができます。
 Prev ボタンを押すと前日の画像になります。日付を指定して表示させることもできます。画像上の星をクリックすると登録リストから10度以内にある星を検索し画面下に表示します。たとえば真ん中やや上の星をクリックすると Sco X-1(さそり座X-1)が出てきます。Sco X-1 の名前をクリックすると、Sco X-1 のページに飛びます。


図2.Clickable All-sky map の例:2010年1月23日に得られた全天画像。全天の96%をカバーしている。中央下の黒い円と図上端はスキャンの極にあたり観測できない領域。下の円から左上に伸びる黒い三角形は、太陽近辺で観測できない領域。

4) Source search
 左欄の Source search をクリックすると、上記のほかに Name search や coordinate search で天体を検索できます。

4.天体のデータページ 

 天体のデータページでは光度曲線 (1日ごと)、最新1日分の周辺画像(全エネルギー帯と 3エネルギー帯別)が表示されます。その下の Interactive light curve では、1日ごとの光度曲線 (4-10 keV 帯) をプロットし、横軸の拡大縮小を行うことができます。また MAXI の1軌道ごとの光度曲線もプロットすることができます。このデータは最下部の "Download data" セクションでテキスト形式でダウンロードすることができます。図3にはブラックホール候補天体 XTE J1752-223 の光度曲線を、図4には周辺画像を載せました。この天体は MAXI も検出していたのですが、タッチの差で発見第一報は RXTE 衛星 PCA 装置に先を越されてしまいました。
 そのほか、天体のスペクトルも公開すべく準備を進めています。また1年後からは On-demand データ公開と称し、ユーザーが指定する任意の空の領域、時間範囲の、画像、光度曲線、スペクトルを生成しダウンロードする機能を付加する予定です。


図3.ブラックホール候補天体 XTE J1752-223 の光度曲線 (2009年 8月15日から 2010年1月25日まで)。
上から全 (1.5-20 keV), 1.5-4 keV, 4-10 keV, 10-20 keV の各エネルギー帯での明るさ。
2009年 10月23日に発見され、2010年 1月21日にはスペクトルが軟状態へと遷移した。


図4.2010年 1月22日の XTE J1752-223 の半径8度以内の周辺画像。
中心が当天体。銀河中心に近いので込み合った領域にある。4枚はエネルギー帯別の画像。
左上から全 (1.5-20 keV)、1.5-4 keV、4-10 keV, 10-20 keVの画像。
状態遷移したので、軟X線バンド (右上) で明るくなっている。

 現在は、日本時間の昼間に閲覧すると2日前の日付けのデータが最新となっています。これは以下の事情によります。現在、処理は UT で1日単位で行っており、日本時間午前9時を基点として、データレコーダの再生データが全部到着するまで7時間程度待ち、6時間かけてイベントデータの抽出・露出補正の計算などを行い、最後に人間の目でチェックしてウェブにアップしています。前日のデータ点は 15 時間程度遅れて日本時間で真夜中の 12 時ごろウェブにアップされます。今後自動化と信頼度アップを図り、観測後1日以内に公表したいと思っています。

5.その他のページ

News のページ
 MAXI の最近の出来事を記載しています。2.5ヶ月積分全天イメージや、2009/8/15 から 2020/1/3 までの毎日の全天画像のアニメーションなどをダウンロードできます。このページは英語ですが、ホームページの左欄下の方には、日本語ニュースページへのリンクもあります。

Publication のページ
 ここには MAXI に関する論文が掲載されています。今まで MAXI が発行した Atel (Astronomer's Telegram) 17件や GCN (Gamma-ray burst Coordinate Network) 4 件もここにリストされています。

Contact
 左欄の下に Contact というリンクがあります。MAXI ホームページに関する質問・要望、リストに加えてほしい天体のリクエストなどはこのリンク先から行うことができます。

6.さいごに

 MAXI は 2009年 8月から順調に稼動中で、処理済データ(約100個天体)は理研 MAXI ホームページから公開されています。このデータは研究者だけでなく、どなたでも利用できます。電子メールによる「速報」も開始しました。これにより MAXI だけでなく他の天文衛星や地上の天文台などと連携して、突発天体の「多波長同時観測」が実現されます。MAXI データベースの運営とデータ公開は MAXI 稼動中は理研で行いますが、MAXI 運用後は ISAS / DARTS に移行し、永久アーカイブとして維持される予定です。

 なお MAXI チームには理研、JAXA のほか、大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、京都大学、宮崎大学、中央大学の研究者が参加し、解析・運用を共同で行っています。


*1 http://www.jaxa.jp/press/2009/08/20090818_maxi_j.html(MAXI のファーストライト)
*2 http://www.jaxa.jp/press/2009/11/20091126_maxi_j.html(MAXI による全天画像取得)
*3 http://www.jaxa.jp/press/2010/01/20100113_maxi_j.html(データ公開開始)
*4 http://www.jaxa.jp/press/2010/01/20100113_sac_maxi_j.html (宇宙開発委員会への報告)
*5 http://www.isas.jaxa.jp/docs/PLAINnews/185_contents/185_1.html (PLAIN ニュース「MAXI のデータ伝送と処理」)



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