PLAINニュース第190号
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日本の月惑星探査と科学データアーカイブ 第3回

DARTS 月惑星科学のはじまり

山本 幸生
宇宙科学情報解析研究系

はじめに

 科学衛星の科学データアーカイブとして DARTS (Data Archive and Transmission System) がありますが、これまで月惑星科学の分野がありませんでした。月惑星科学に含まれる衛星は、ハレー彗星に向けて飛んだ「さきがけ」「すいせい」、火星探査機「のぞみ」、小惑星探査機「はやぶさ」、月周回衛星「かぐや」があります。残念ながらこれらの衛星のデータが誰にでも利用可能なように保存されている訳ではありません。また将来には、金星探査機「Planet-C」や水星探査機「Beppi-Colombo」といった具体的に打ち上げが決まったミッションから、「はやぶさシリーズ」や「かぐやシリーズ」、火星探査機「MELOS ミッション」なども視野に入れてデータアーカイブを行っていくことになります。

衛星開発とアーカイブシステム

 現在のインターネットに関する技術は日進月歩です。その一方で衛星開発にかかる期間は 5年から 10年を要します。この間、インターネットを含めた情報科学の技術はどんどん進歩していきます。したがって長期に渡って変化しない部分と、随時変化を繰り返す部分と二つに分けて管理することが重要となります。

 また DARTS 月惑星では、RESTful という考え方を踏襲して、1 プロダクト 1 URL を原則にデータを保持することを目指して構築しています。しかしながら PDS では 1プロダクトを構成するファイルは必ずしも 1ファイルとは限らないため、複数のファイルを 1つのファイルにまとめるか、指定した URL がディレクトリを指し示し、そこに必要なファイルが含まれるようにするなどの方式を採用しています。

月惑星科学分野の方向性

 惑星探査機にはさまざまな観測機器が搭載されます。月惑星科学データアーカイブを構築するにあたり、行うべき事柄は二つです。一つは後世に渡ってデータを利用可能な状態で保存すること、もう一つはデータに対するサービスを提供することです。

 月惑星科学分野において、前者の「保存」に関しては NASA の開発した Planetary Data System (PDS) が現在のところ最も優れています。ただしサービスという観点では、まだまだ開発の余地が十分に残されており、PDS でアーカイブされたデータに対してどのようなサービスが提供可能なのかを模索していくことになります。

DARTS 月惑星科学フロントエンド

 フロントエンドとしては、DARTS が提供するのは現在のところ 3つのサービスとなります。

(1) 小惑星探査機「はやぶさ」のデータ公開
(2) SPICE カーネル配信
(3) Planetary Data Access Protocol サービス

です。


図1 変化の度合いによる分離

図 2 DARTS 月惑星科学

はやぶさデータアーカイブシステム

 これまでも「はやぶさ」データアーカイブシステムが公開されていましたが、将来のシリーズ化を考慮して作られていませんでした。そこでまず「データ」と「システム」の分離を行い、データに関しては自動バックアップが取られる外部 NAS を利用することで、データに対するリスクを最小限に抑えています。この外部 NAS は他の DARTS の科学衛星データと共通のため、C-SODA のハードウェアリプレース時に維持されます。月惑星科学に関する担当者が最悪対応しなくなったとしても維持されることが保証されます。またデータ部でないウェブサイトそのものは C-SODA 内で利用しているバージョン管理ソフトウェア (Mercurial) で行っています。したがって実際のハードウェアリプレースの際には、まずデータ構造をそのまま移行し、次にバージョン管理ソフトウェアからウェブサーバの所定のディレクトリにチェックアウトしてもらうことでデータ移行が行えるよう設計されています。

SPICE カーネル配信

 SPICE とは衛星の補助情報(時刻,位置,姿勢,観測視野など)を取り扱うためのシステムです。SPICEで取り扱うデータのことを SPICE カーネルと言います。現在は「はやぶさ」が小惑星イトカワへ到着した後の SPICE カーネルが用意されていますので、カメラの方向など、簡単に計算することができます。年度内には月周回衛星かぐやの SPICE カーネルも準備する予定ですので、ユーザは月周回シミュレーションや、任意の時刻での衛星直下点の緯度経度、太陽高度などを計算することができるようになります。

Planetary Data Access Protocol

 研究者の間では、惑星科学データをミッションを横断してデータ検索・取得を行いたいという要求があります。近年のどの衛星においても、自分の欲しいデータを検索して取得するシステムがありますが、これを国際的に標準化するための仕組みが Planetary Data Access Protocol (PDAP) になります。PDAP は技術的にはウェブサービス分類され、HTTP 上の GET/POST のパラメータで検索要求を与え、XML の応答を返してきます。PDAP を使うことで、JAXA のデータだけでなく、NASA や ESA のデータも同様に検索することが可能となります。PDAP は現在開発中であり、International Planetary Data Alliance (IPDA; 国際惑星データ連合) の元、仕様の策定を行っています。

その他のデータアーカイブ

 JAXA の探査機以外でも、Apollo のデータは世界に散在して存在しており、その一部を JAXA で保有しています。このデータの利用価値については最近データマイニングと呼ばれ、最新の解析技術等を利用して再解析を行うことで、新たな研究成果を挙げる事が可能と考えています。

 また「はやぶさ」のリエントリーカプセルが無事に小惑星サンプルを持ち帰って来た暁には、実験室データをどうアーカイブし、どう公開するかは重要な課題と言えます。NASA でサンプルリターンをした Stardust ミッションと情報の共有と、それらを後世に正しく残す方法についてはしっかりと議論して、システムとして残すことが望ましいと考えています。

将来構想

 DARTS に置かれているデータは単なるデータ置き場としてだけでなく、サービスと絡めることで有用に活用可能と考えています。他の分野では解析端末が用意されており、DARTS のデータに直接アクセスが可能となっています。「かぐや」のデータは特に 100TB 近くを占め、すべてをダウンロードして解析することはほぼ不可能です。したがって解析端末を準備しデータの直接アクセス可能な環境を構築する予定でいます。

 また解析端末とは別に、実際にブラウザ上で動作可能なサービスも展開する予定でいます。DARTS 月惑星科学が研究促進の良いツールとして認識されるよう、構築していく予定でおります。



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