PLAINニュース第182号
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宇宙情報システム講義第2部
これからの衛星データシステムはこうなる

(第9回 GSTOS3)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 前回は、汎用衛星試験運用ソフトウェア (Generic Spacecraft Test and Operations Software、略して GSTOS、ジストスと発音します) のコマンド系の機能の話をしましたが、今回はテレメトリ系の機能の話をします。

 テレメトリ系の機能は、(1) テレメトリを衛星より受信すること、(2) 受信されたテレメトリの値を画面に表示すること、(3) 受信されたテレメトリの値に基づいて衛星の状態を診断すること、の3つに分かれます(図1参照)。


図1 GSTOS テレメトリ系の機能

 まず、(1) のテレメトリ受信機能は、衛星が生成したテレメトリを地上局より受信します。衛星はテレメトリをパケットという単位(この連載の 第1部 第2回(第161号)参照)を用いて生成するのですが、パケットに格納されているデータは、衛星と地上の間の回線でなるべく多くのデータを送れるようにするために、あるいは、衛星内の個々の機器の事情により、データの抽出あるいは変換を行わないと通常のデータとして使用できない場合が多いのです。パケットからデータの抽出や変換を行うために必要なデータは SIB(この連載の 第1部 第4回(第163号)参照)に格納されていますので、それを用いて必要な抽出と変換を行い、その結果を (2) と (3) の機能に渡します。

 (2) のテレメトリ画面表示機能は、(1) の結果を利用者の指定した形式で表やグラフとして画面に表示する機能です。GSTOS のこの機能は、現在のシステムで使われている機能を基にして開発するのですが、現在のシステムを使用して実際に衛星の試験や運用を行ったプロジェクト関係者の意見を大幅に取り入れ、機能の全面的な見直しを行い、どのような目的の試験や運用でも使用できるような柔軟なソフトウェアを開発しようと思っています。

 画面上にデータを表示する方法は、形式的な言語を用いて定義し、その定義を書き直せば画面表示も自動的に変わるようにします。画面定義を直せば画面表示も変わるというのは、現在のシステムでもそうなっているのですが、現在は複数の方式があり、GSTOS ではそれを一つに統一します。

 (3) の衛星状態診断機能は、受信したテレメトリの値に基づいて衛星の状態が正しい状態にあるかどうかを判定する機能です。これは、衛星が正しい状態にあるときにはテレメトリの値がどうなっていなければならないかの規則をあらかじめ SIB に登録しておき、受信したテレメトリがその規則を満たしているかどうかを判定することによって実現します。

 この規則には、単純なものから複雑なものまであるのですが、単純なものは、一つのテレメトリの値の上限値と下限値を定め、受信したテレメトリの値がこの上下限値の間に入っていれば正常、そうでなければ異常と判断します。このような判定の仕方は、今までリミットチェックと言われてきたものと同じです。もう少し複雑な規則の例としては、次のようなものがあります。あるテレメトリがある値を取っているときに(例えば、ある機器の状態を示すテレメトリの値が ON であるときに)、別のテレメトリの値がある範囲内にあれば正常、そうでなければ異常であると判断します。この規則は、二つの演算の AND を取ったものとして表すことができます。もっと複雑な判断規則もいろいろな演算を AND や OR 等で接続したものとして表現できます。

 今までのシステムでは、リミットチェックと複雑な判断とを別々のものとして扱い、判断するためのメカニズムも別々に開発し、判断規則も別々に制定していたのですが、別々にする必然性は全くありませんので、GSTOS ではそれを一つにします。

 この連載の第2部第3〜5回(第176178号)で機能オブジェクトの話をしたときには診断規則の説明を省略してしまったのですが、これらの衛星診断の規則は、機能オブジェクトの性質として SIB に登録します。

 今回説明した GSTOS のテレメトリ系の機能は、SIB と画面定義ファイルさえ取り替えればどのような衛星でも利用できるようにします。

 また、前々回説明したように、GSTOS は搭載機器の単体試験でも使用できるようにしますので、搭載機器の開発担当者は、搭載機器の設計と同時に SIB のデータも作成し、SIB を搭載機器の機能設計結果のデータベースとしても使っていただきたいと思います。

 次回 からは、衛星の中でのデータ処理の話をします。



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