PLAINニュース第181号
Page 1

PLANET−C のデータハンドリング

上野 宗孝・東京大学
今村 剛・宇宙科学共通基礎研究系

 今回から 2回に分けて PLANET-C のデータ処理とアーカイブ化について紹介します。

1.PLANET-C 〜金星の大気力学の解明へ〜

 PLANET-C / VCO (Venus Climate Orbiter) は名前が示すように金星の気象学的モニター観測を行い、金星大気の持つ特異な力学メカニズムを解明することを目的に 2010 年夏の打ち上げを目指して準備を進めています。金星はその自転速度が遅い(自転周期 243 地球日:逆行回転)にも関わらず、上層の大気が 4 地球日で 1 回転するという超回転 (スーパーローテーション) 現象を有しています。地球や火星では、大気の運動が地面の運動に対して結合しているのに対して、金星および土星の衛星であるタイタンでは超回転という特異な現象が観測されています。このような惑星大気のダイナミクスが、地球・火星型と金星・タイタン型に分化するメカニズムは未だに理解されていない問題であり、このような現象が大気の長期的な進化にどのような影響を持つかということは、今後の系外惑星の生命圏を論ずる上でも極めて重要な話題です。

 金星大気の運動に関する垂直構造については、旧ソ連によるベネラ探査機によるプローブ測定などによりピンポイント的な観測結果があるものの、PLANET-C では金星の全球規模での大気運動を人類史上初めて系統的に観測し、これを用いて金星大気のダイナミクスを明らかにすることを目的としています。

 PLANET-C は 4台のカメラと 1台の高速測光撮像装置、さらに電波掩蔽観測を実現するための超高安定発信器を搭載し、金星を周回する長楕円軌道に投入されます。探査機は図1に示されるような長楕円軌道に投入され、探査機の軌道速度が超回転の上層大気の運動にトラッキングされるように設計されており、これにより PLANET-C は金星の軌道上から2時間間隔で金星の全球撮像を複数の波長で行います。


図1 黄北方向から見た PLANET-C の金星周回軌道


図2 金星大気の垂直構造と PLANET-C 観測波長

PLANET-C に搭載されるカメラの観測波長は、波長毎に金星大気の異なる高度の観測を行う計画であり(図2)、特に金星の地表面及び低高度の大気の温度が上層の大気や雲の温度よりも高いことから、1-2μm 帯のカメラを用いた観測では、地表面や低高度の大気から放射される赤外線を背景に、相対的に冷たい雲の吸収によるパッチーな画像を得ることになります。この画像を2時間置きに取得して比較することにより、さながら地球の気象観測衛星から得られる雲の移動の動画のようなデータを PLANET-C は地球に送信し続けるミッションです。異なる高度の大気を背景として観測できる特徴を活かすことで、雲の高度毎の運動を切り分けることができることから、金星大気の 3次元的な運動を全球規模でとらえる事が可能となります。またこのようなダイナミクスが上層大気のダイナミクスにどのような影響を与えるかをモニターする波長も搭載しています。このように PLANET-C で得られるデータは、画像の1枚1枚も科学的な意味を持ちますが、さらにそれら連続した時系列のアーカイブこそが最も重要なアーカイブとなり、ユニフォームでシームレスなアーカイブ化こそ PLANET-C の科学的成果を大きく飛躍できるかどうかにとっての試金石を担うことになります。

 次号では、PLANET-C に搭載されるカメラから得られるデータと、探査機上で行う一次処理、さらに地上で受け取ったデータの処理について紹介する予定です。特に地球からの距離が離れた探査機から伝送できるデータ量には制限があるため、探査機上でも伝送量に応じた一次処理が必要とされる点が探査機の設計上も重要となります。

このページの先頭へ



(958KB/ 2pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME