PLAINニュース第180号
Page 1

宇宙情報システム講義第2部
これからの衛星データシステムはこうなる

(第7回 GSTOS1)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今までは、衛星情報ベース(Spacecraft Information Base, SIB)に衛星の機能情報を取り込むために開発してきた衛星の機能モデルの話をしてきました。また、機能モデルに従って設計された衛星を監視制御するための衛星監視制御プロトコルの話もしました。

 今回からは、これらの技術を利用して衛星を監視制御するために開発しようとしている汎用衛星試験運用ソフトウェア (Generic Spacecraft Test and Operations Software、略して GSTOS、ジストスと発音します) の話をします。

 今回は、まず GSTOS の基本概念についてお話しします。GSTOS の基本概念には二つの柱があります。一つ目は「機能ごとに開発する」であり、二つ目は「衛星のライフサイクルのあらゆるフェーズで使えるようにする」です。

 まず、「機能ごとに開発する」について説明します。宇宙科学研究本部で現在使用している衛星データ処理システムの基本原理については、この連載の第1部で説明しました。そこで説明したシステム構築のための基本原理は、GSTOS の開発にも適用されます。例えば、装置と装置の間のインタフェースには、連載 第1部の第3回 で説明した SDTP を標準プロトコルとして使用します。

 しかし、個々の装置の開発の仕方は、現在のシステムと GSTOS では変えようと思っているのです。現在のシステムの装置構成については連載の第1部では詳しく説明しませんでした。それは、GSTOS によって装置の構成方法を変えようとしているからです。

 現在のシステムでは、衛星管制装置、共通 QL 装置、衛星診断装置(ISACS-DOC)等の装置が衛星の監視制御のために使われています。ところが、これらの装置は装置ごとに別々に開発されたために、これらの装置の機能はかなり重複していますし、同じ(あるいは類似の)機能が装置ごとに別々に開発されているのです。これは、開発費用の無駄遣いになっています。さらに、衛星の運用者は複数の装置の異なる使用方法を覚えなければならないために、運用が必要以上に複雑になっています。

 そこで、GSTOS では、装置ごとに開発するのではなく、機能ごとに開発することにしました。そして、個々の装置は、その装置で必要となる機能を組み合わせることによって構成します。このようにすると、現在のシステムの無駄や複雑さを回避することができるのです。

 このような開発を行うために、GSTOS では、まず、衛星の監視制御で必要となる機能の定義を行いました。そして、関連する機能をまとめることによっていくつかのソフトウェア要素を定義しました。具体的なソフトウェア要素の話は次回いたしますが、これらのソフトウェア要素は、それがいつどこで使われるかには依存しない形で定義されています。そして、必要な場合に必要なソフトウェア要素を自由に組み合わせられるように、ソフトウェア要素間のインタフェースを標準規格(標準 API あるいは標準ファイル形式)として規定しています。また、これらの標準インタフェースを利用して、新たなソフトウェア要素をシステムに組み込むことも容易にできるようになります。

 これらのソフトウェア要素は、前回までに説明してきた機能モデルや衛星監視制御プロトコルの特徴を利用して開発されます。ただし、現在のシステムで使っている機能で GSTOS でもそのまま役に立つものに関しては、ソフトウェアの再利用を図り、開発の効率を上げたいと思っています。

 二つ目の柱は「あらゆるフェーズで使えるようにする」です。現在のシステムでも、衛星の組み立て後は、試験(総合試験)でも運用でも基本的には同じ装置を使っています。GSTOS では、衛星の組み立て前の試験(単体試験)でも同じ装置を使えるようにしようと思っています。これを実現するためには、地上で使っている標準プロトコルである SDTP と衛星内の標準プロトコルである SpaceWire との間の変換機能を開発します。この機能を使えば、衛星試験装置を衛星内のネットワークに直接つなぐことができるようになり、相互試験で使用する装置をそのまま単体試験でも使えるようになるのです。

 今までに述べてきた柱以外にも、GSTOS には、過去の宇宙研の同様のシステムにはない特徴がいくつかあります。その一つは、要求を要求仕様書で規定していることです。これは、一般のシステム開発では当たり前のことですが、宇宙研で要求仕様書を書く例はあまりありません。この要求仕様書は、今までにいろいろなプロジェクトで衛星の試験や運用に関わってきた人から収集した要求事項を系統的にまとめたものであり、利用者の要求が正確に要求仕様書に反映されています。

 さらに、要求仕様書の執筆や先に述べた標準インタフェースの設計は、ほとんどすべて宇宙研の衛星運用グループ員が自分たちで行っています。これによって高いレベルの技術を衛星運用グループ内部に蓄積することができるようになります。

 次回は、GSTOS の機能についてお話しします。

このページの先頭へ



(665KB/ 2pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME