PLAINニュース第175号
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「あけぼの」衛星データの整備

松岡 彩子
宇宙プラズマ研究系/あけぼのプロジェクトチーム

「あけぼの」衛星の概要

 「あけぼの」衛星は、1989年 2月にオーロラ現象の解明を主目的として打ち上げられた。プラズマ粒子・磁場・電場・プラズマ波動・放射線粒子を測定する8種の観測機器と、オーロラ撮像カメラを搭載し、地球周辺の電離圏・磁気圏のプラズマ諸現象の観測を行ってきた。打ち上げ後 19 年以上が経過しているが、衛星の運用に必要な基本機器は(もちろん打ち上げ当初に比べて劣化は起こっているものの)正常に動作している。観測機器は、打ち上げ後約1年で放射線による劣化のためにデータが使用不可能となったオーロラ撮像カメラのほか、放射線・経年劣化のために性能が落ちたものもあるが、現在でも半数の機器は打ち上げ時ほぼそのままの性能を維持してデータを取得している。

「あけぼの」衛星の重要性の変化

 「あけぼの」衛星の打ち上げ当時は、観測機器の性能は世界的にトップレベルであり、オーロラ現象に象徴される極域現象、プラズマ圏や放射線帯などの低緯度現象についての理解にインパクトを与える多くの観測を行った。しかし、打ち上げ後 19 年が経ち、「あけぼの」の重要性は変わってきている。

 第一には、イベント的な観測は、その後打ちあがった衛星の最新の観測機器には対抗できないが、同じ特性を持つ観測機器で、長期間データを取得したことにより、長いスパンでの変動現象が見られるようになったことである。特に地球周辺のプラズマ環境は、11 年周期で変動する太陽活動度に大きな影響を受けることが知られている。図1は、打ち上げ後 2006 年までの、放射線帯の消長を、太陽の黒点数と共にプロットしたものである。現在、「あけぼの」衛星は、太陽の磁場の反転周期である 22 年間の完全な観測を目指している。


図1 あけぼの打ち上げ後、2006 年までの放射線帯の消長を、太陽の黒点数と共にプロットしたもの

 第二には、打ち上げ当初はオーロラ現象等、極域の現象が主たる観測目的であったが、プラズマ圏や放射線帯等の中低緯度領域の観測に大きな重要性を持つと認識されるようになったことである。この領域を統計的に観測した衛星は、国際的にもほとんど無いといってよい。

「あけぼの」衛星データの整備

 「あけぼの」衛星は良質かつ大量のデータを取得しながら、残念ながらデータベースはこれまで余り使い勝手の良いものではなかった。原因の一つには、長い間、衛星計算機でしかアクセスできない旧シリウスに衛星データがあったことがあげられる。これは、ワークステーション(WS)でアクセス可能な新シリウスへの移行が完了した後、改善されつつある。もう一つは、「あけぼの」が打ち上げられた 19 年前は、衛星データ処理に WS が使われておらず、またパソコン(当時は NEC 98)の能力が低かったため、衛星計算機上でしか動かないデータ処理プログラムとなってしまったことである。前述のシリウスの移行に同期して、WS へのプログラムの移行・移植を進めている。現在全機器が、終了しているか、ほぼ目処が立った段階に達している。あともう少し頑張れば、かなり使いやすいデータベースとなるはずである。データベース化を難しくした最後の要因は、19年前はまだデータを公開するということが一般的ではなく、リクエストに応じて送付するのが普通であり、誰にも使いやすいデータベース作りに労力を割かなかった、ということも挙げられるであろう。現在、「あけぼの」プロジェクトでは、校正前のクイックルックデータも原則公開する方向で作業を進めている。

 最後になるが、これらのデータベース作成作業に、PLAINセンターおよび関係の方々の更なるご協力をお願いしたい。

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宇宙情報システム講義第2部 これからの衛星データ処理システムはこうなる(第2回)


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