PLAINニュース第174号
Page 2

宇宙情報システム講義第2部
これからの衛星データシステムはこうなる(第1回 はじめに)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今回から宇宙情報システム講義の第2部が始まります。

 昨年の 2月号から 8月号まで連載させて頂いた 第1部 では、1998 年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」以降現在に至るまでのすべての科学衛星の試験と運用で使用されてきた衛星データ処理システムの基本的な考え方を解説しました。

 現在は、第1部で解説したシステムを将来の衛星用にさらに高機能化するための検討を行っています。第2部の連載では、現在行っている検討の内容について解説します。

 さて、システムの高機能化の検討は、衛星情報ベース(Spacecraft Information base, SIB)を高機能化するための検討から始まりました。現在の衛星情報ベースについては、昨年5月号(163号)で解説しましたが、基本的には衛星が受信するコマンドパケットの内容と衛星が発生するテレメトリパケットの内容を蓄積するためのデータベースです。

 最終的には、このデータベースに衛星に関するあらゆる情報を蓄積し、衛星に関することなら何でもこのデータベースから取り出せるというようにしたいのですが、衛星に関する情報には様々な種類のものがあり、そのようなデータベースは、そう簡単には開発できそうにありません。

 そこで、情報データベースの第2段階としては、衛星の機能情報のみを取り込むことにしました。ここで言う機能とは、衛星が地上からの指示に従って軌道上で実行する何らかの仕事のことです。例えば、観測を実行するとか姿勢を変更するというような仕事のことです。

 このような機能的な情報は、衛星および搭載機器の設計の結果として得られるものですが、この情報は衛星を運用するときにも必要になります。従って、衛星の機能情報をデータベースに格納できれば、衛星の設計者が自分の設計結果を管理するためにも使用できますし、運用者が運用を行うときにも使用できます。このようなデータベースがあれば、設計者にとっても運用者にとっても便利ですし、将来の衛星データベースの一つの見本になるのではないかと考えたのです。

 さて、上で説明した機能情報の内容についてもう少し詳しく説明します。衛星に仕事をさせるときには衛星にコマンドを送って実行させます。また、実行結果は衛星よりテレメトリを受信して確認します。実は、ここで「衛星に」「衛星より」と書きましたが、これらのことを衛星内で自律的に実行してもよいのです。しかし、ここでは話を簡単にするために、衛星には外部から指示を送り、その結果も外部で確認するものとします。前置きが長くなりましたが、ここで言っている機能情報とは、あるコマンドを衛星に送信したときに、衛星がどのような状態になり、そのことをどのようなテレメトリで確認できるのか、という情報のことなのです。

 これは、情報の種類としては比較的単純な方なので、このようなデータベースは簡単にできるだろうと思って、過去の衛星を例にとってこのようなデータベースを実際に作ってみたのです。ところが、これは結構大変な作業でした。それはなぜかというと、コマンドやテレメトリの使い方、および、コマンドとテレメトリとの対応関係が衛星毎によってバラバラであり、また同じ衛星でも搭載機器毎にバラバラなのです。

 さらに、このようなことをバラバラにしておいたら、データベースの作成がたいへんになるだけでなく、いろいろなことがたいへんになっているのだということに気付きました。まず、搭載機器の設計を行う人がコマンドやテレメトリの使い方を別々に考えなければなりませんから、設計がたいへんになります。また、設計結果がバラバラですから、運用者が理解するのもたいへんになります。

 そこで、このような問題を解決するために、「衛星の機能設計はこのように行って下さい」という決まりを作ることにしたのです。この決まりは、システムのモデル化の技法に基づいて作りましたので、「衛星の機能モデル」と呼ぶことにしました。衛星をこの機能モデルに従って設計すれば、設計が効率的に行われ、コマンドやテレメトリも体系的に設計でき、さらにデータベースも簡単に作成できるようになるのです(図1参照)。


図1 衛星の機能モデル

 このカラクリについては 次回 以降解説しますので、どうぞご期待下さい。

このページの先頭へ



「科学衛星運用・データ利用センター」の発足について へ


(576KB/ 2pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME