PLAINセンターニュース第166号
Page 1

宇宙情報システム講義第1部
衛星データ処理システムをこう作ってきた(最終回 衛星運用)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 今回で「宇宙情報システム講義第1部」はおしまいですが、少しお休みを頂いてから第2部の連載を始める予定です。

 さて、第1部の最終回では、この連載で今までに説明してきた「のぞみ」以降の新しい衛星データ処理システムを採用したことによって衛星の運用がどのように変化したのかという話をします。新しい衛星データ処理システムによって運用面で最も大きく変わったことと言えば、地上局の選択の範囲が広がったことです。

 それまでの宇宙研の科学衛星の運用では、地上局として内之浦局と臼田局しか使用していませんでした。それまでの衛星でも海外の地上局を使用したことはあるのですが、海外局ではテレメトリの受信だけを行い、受信したテレメトリデータを後で宇宙研に送ってもらう、あるいは、海外局ではレンジングだけを行い、そのデータに基づいた軌道決定値を後で宇宙研に送ってもらうというように、海外局の利用はオフライン的なものに限られていました。海外局は、衛星にコマンドを送信しながらコマンドの実行結果をテレメトリによりリアルタイムに確認するというようなオンライン的な運用に利用されることはありませんでした。

 以前の衛星で海外局をオンライン的に使用していなかった理由は、それまでの宇宙研のシステムではシステム内のインターフェースの種類が多く、なおかつ、各々のインターフェースもそれぞれ独特のものを採用していたために、海外局との接続が困難だったからです。

 ところが、新システムではそれが簡単にできるようになったのです。その理由は二つあります。一つは、この連載の 第3回(No. 162)で説明したように、システム内の標準インターフェースとして SDTP を採用したことです。もう一つは、多くの海外局で国際標準インターフェースとして SLE (Space Link Extension) が採用されたことです。

 SLE は SDTP と同じ目的で開発された国際標準規格です。我々が SDTP を開発したときに SLE が存在していれば、我々も SLE を採用したのですが、我々が SDTP を開発したときにはまだ SLE は存在していませんでした。それで我々は独自に SDTP を開発したのですが、後になって開発された SLE も SDTP と非常に似た規格でしたので、我々は SDTP と SLE との相互変換を行うゲートウェイという装置を開発しました。

 内之浦局や臼田局の設備と相模原の衛星運用システムとの間は SDTP で接続されていて、相模原から内之浦局や臼田局を使用してオンライン運用を行うことができます。海外局を使う場合は、海外局と相模原の衛星運用システムとの間にゲートウェイ装置を入れます。こうすると、海外局も内之浦・臼田局と全く同様に使えるようになるのです(図1参照)。このような方式で、NASA の Deep Space Network (DSN) 局とノルウェイのスバルバード局が使用できるようになりました。また、旧 NASDA の新 Ground Network(新 GN)局と相模原の衛星運用システムとの間も SLE を使って接続され、相模原から新 GN 局も使用できるようになりました。

図1 ゲートウェイの概念

 実際に「はやぶさ」が小惑星に着陸したときには、臼田局、DSN のマドリード局(スペイン)、DSN のゴールドストーン局(米国)の3局を交代に使い、24 時間運用を行ったのです。また、「あかり」と「ひので」の運用では、新 GN 局がしばしば使用されています。

 さらに、宇宙研で衛星を打ち上げるときは、打ち上げ場である内之浦において打ち上げ前の衛星の試験と打ち上げ後の初期運用を行います。このときは、内之浦の衛星運用システムが使用されるのですが、このシステムもインターフェースとして SDTP を使用していますので、内之浦の運用システムにもゲートウェイ経由で海外局を接続することができます。内之浦で衛星を打ち上げると、たいていの場合最初に衛星と交信できる局は DSN 局あるいは新 GN 局ですから、内之浦で打ち上げ前の試験を行い、そのままの体制で DSN 局あるいは新 GN 局を用いて打ち上げ後の衛星の状態の確認を行うことができます。

 実際に「はやぶさ」では、打ち上げ後の衛星の状態の確認を DSN のゴールドストーン局を使用して内之浦で行いました。「あかり」と「ひので」でも、同様なことを新 GN のパース局(オーストラリア)や新 GN のサンチアゴ局(チリ)を使用して行いました。

 このように新衛星データ処理システムでは、多くの地上局を内之浦・臼田局と同様に使用することができ、運用の自由度が非常に大きくなりました。

 これで「のぞみ」以降の衛星で使用されてきた衛星データ処理システムの紹介をした第1部を終わります。第2部では、将来衛星向けに現在開発している衛星データ処理システムについて解説する予定です。

このページの先頭へ



この号のもくじ へ

情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか (第9回) へ


( 651 KB/ 4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME