PLAINセンターニュース第162号
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情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか?(第7回)

村田 健史
愛媛大学総合情報メディアセンター
宇宙科学情報解析センター客員

 (155号から続く)
1. 緒言
2. Cyber Media Space −愛媛大学総合情報メディアセンターの最近の取り組み−
2.1 概要
2.2 スーパーコンピュータ
2.3 3D Web
2.4 バーチャルリアリティー (VR) システム
2.5 ボリュームコミュニケーション
2.6 MPEG7 による e-Learning 系マルチメディアコンテンツ
3. 科学衛星地上観測データ解析参照システム(STARS)
3.1 STARS について
3.2 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法について
3.3 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法 (その2〜データフォーマットについての考察)
3.3 STARS1 & STARS2:オブジェクト指向とオブジェクト指向開発技法 (その2…) のつづき
3.4 STARS3:メタデータベースの重要性


3.4 STARS 3:メタデータベースの重要性(続き)

 前回、科学衛星観測データファイルを管理するために設計したメタデータベースについて説明した。メタデータとは、データに関する様々な付随情報を記述したデータである。メタデータは観測データそのものではないが、観測データを有効に活用するためには必要不可欠なデータであることが、お分かりいただけたのではないかと思う

 一般的な観測データと同じように、メタデータはメタデータベース管理サーバにより管理されている。STARS では、STARS メタデータベース管理サーバを愛媛大学に立ち上げ、管理運営を行ってきた。メタデータを利用する STARS アプリケーションは、STP メタデータベース管理サーバに問い合わせる(クエリを投げる)ことで、データファイルの場所(URI)やその他の必要な情報を得る仕組みである。


図15 STARS でデータ検索をした例: 2007年4月1日から 4月10日までのデータ一覧が、
左側のツリービューに表示されている。GEOTAIL 衛星、POLAR 衛星、WIND 衛星などのデー
タは存在しており、AKEBONO 衛星、ACE 衛星などのデータは未登録であることが分かる。

 メタデータベースは、さまざまな利用方法がある。幾つか、具体的な利用例を挙げてみよう。

  1. 2007年4月1日から4月10日までにひとつでもデータファイルが存在するミッションが知りたい。たとえば、関連学会において、ある海外衛星観測の事例報告を聞いたとする。自分が利用できる観測データが、その期間に存在するかどうかを知りたい。あればすぐに見てみたいということはよくあることだろう。通常であれば、その期間をメモしておき、帰国してから自分のデータと見比べてみる。しかし、STARS では、「その場で」データの存在の有無を調べることができる。たとえば図15 では、GEOTAIL 衛星、POLAR 衛星、WIND 衛星などのデータは存在しており、AKEBONO 衛星、ACE衛星などのデータは未登録であることが分かる。筆者は、AGU などの学会に参加するときには自分のノート PC を持ち込み、講演を聞きながら講演で紹介されるデータを手持ちのデータと STARS で比較することがある。(AGU の会場の無線ネットワークは不安定でかつ高速ではないため、十分なパフォーマンスはないのだが。)
  2. 2001年10月15日の GEOTAIL/LEP/LEP_SDB データファイルの URL が知りたい。STARS ではセキュリティー保護のためにユーザに URL は公開していないが、内部の処理では URL の検索処理を行っている。STARS システムは、この URL を用いてデータをダウンロードし、さらにプロットを行っている。
  3. REIMEI/CRM データファイルが存在する期間を知りたい。このように、データを先に決めておき、そのデータが存在する期間を知りたい場合がある。現在の STARS ではこのサービスを提供していないが、次期バージョンではサービスを行う予定である。また、複数のデータを選択して、全てのデータが存在する期間を調べたいこともあるが、これも可能である。
  4. 単一、または複数の衛星が特定の領域に位置する期間を知りたい。この機能は、STARS メタデータベースで提供される検索ではないが、研究者には有用なサービスである。

 前回 の 2つの図(STARS メタデータの例)で表したように、STARS では科学衛星観測データやそれを解析するユーザの関係を木構造で表現している。たとえば、ユーザ情報は Mission(衛星観測計画)−Team(観測班)−Group(観測グループ)−ユーザ(データ利用者)という所属で表した。このデザインを使って、STARS では、データファイルの公開場所(URL)や各データファイルの観測日時だけではなく、ユーザへのアクセス権限を設定した。これにより、データを公開する側(たとえば宇宙科学研究本部)は、データファイルごとにデータアクセスを特定のユーザに与えることができる。データアクセス権限の制御は、上記の各ノードに対して柔軟に与えることができる。たとえば、データファイルを特定の観測班に所属する全員に公開する事もできるし、ミッション全体や特定の個人ユーザに公開する事もできる。

 ファイルごとにデータ公開の範囲を設定することは、科学衛星観測データを公開には重要である。たとえば、「2006 年以降のデータはまだキャリブレーションが終わっていないので宇宙科学研究本部内の関係者にのみ公開したい」と言う場合や、「まだ一般公開はされていないがキャンペーンのために特定の 1週間分だけデータを公開したい」というような場合など、ファイル単位でのデータ公開範囲を変更が必要になるのはよくあることである。同様に、たとえばミッションノードのアクセス権限を解除することで、ミッションデータ全体を一般公開にすることが簡単な処理一つで実現できる。最近の例では、PI の決定により GEOTAIL/PWI/SFA と MCA データを一般公開することになったが、STARS メタデータベースの設定を変更することで、STARS 上でも一般ユーザがデータにアクセスすることができるようになっている。 

次号 に続く)

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宇宙情報システム講義第1部
衛星データ処理システムをこう作ってきた(第3回 SDTP)

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