PLAINセンターニュース第162号
Page 1

宇宙情報システム講義第1部
衛星データシステムをこう作ってきた(第3回 SDTP)

山田 隆弘
宇宙情報・エネルギー工学研究系

 

 今回は、宇宙データ転送プロトコル (Space Data Transfer Protocol)、略して SDTP の話をします。前回はパケットの話をしましたが、SDTP は、地上において、あらゆるユーザー(パケットを処理する装置など)が自分の欲しいテレメトリパケットをいつでも(衛星の試験中でも打ち上げ後の運用中でも)どこでも(試験センターでもロケット発射場でも運用センターでも)同じ方法で受信できるようにしたものです。パケットを受信したい人は、SDTP の使い方さえわかっていれば、パケットが衛星から地上に伝送され、それが地上のシステム内で配送される仕組みをいっさい知らずにパケットを受信することができます。

 上に「自分の欲しいパケット」と書きましたが、「自分の欲しいパケット」を指定する方法を説明したいと思います。これは、基本的には、衛星の識別子(衛星 ID)とパケットの種類を示す識別子(Application Process Identifier、略して APID)を使って行います。この二つの識別子の組み合わせによって、「はやぶさの近赤外分光器が観測したデータを下さい」というような指定を行うことができます。また、システムが衛星より現在受信しつつあるデータをリアルタイムに受信することもできますし、過去のデータを「いつからいつまでのデータを下さい」というように指定して受信することもできます。

 SDTP が開発され、それが地上のデータ処理システムの標準インターフェースとして整備されたことにより、パケットを受信したい人は、衛星の試験中でも打ち上げ後の運用中でも、また、相模原でも内之浦でも、自分の欲しいパケットが同一の方法で受信できるようになりました。コンセントにプラグを差し込めばパケットが出てくる、というような仕組みができあがったのです。

 以上ではテレメトリパケットについて説明しましたが、SDTP ではテレメトリパケットだけでなく、コマンドデータ、地上局設備の状態を示すデータ、レンジデータ(地上局から衛星までの距離のデータ)など、衛星の運用で使用されリアルタイム伝送が必要になるあらゆるデータの伝送に使用されています。また、SDTP は衛星データの利用者に対するインターフェースとして使われているだけでなく、衛星データ処理システム内でデータ伝送を行うときの統一方式としても使用されています。

 この連載の 第 1 回目(2007年2月21日号)で、「のぞみ」以降の新しいシステムを「全く新しい発想で開発しようとした」と書きましたが、ここでこの「全く新しい発想」について説明したいと思います。

 「のぞみ」より前のシステムでは、システム内の装置の設計は装置毎にバラバラに行っていました。また、装置間のインターフェースの設計も、装置を接続するたびにバラバラに行っていました。それを、新しいシステムでは、伝送の機能に関しては装置に関係なく汎用の伝送機能として設計することにしたのです。その結果としてできあがったものが SDTP です。そして、SDTP をすべての装置で伝送の機能を実現するために使うことにしました。このもくろみは成功し、今は宇宙科学研究本部の衛星データ処理システムのほとんどすべての装置が SDTP で接続されています(図1参照)。また、このシステムに新しい装置を接続する場合でも、伝送の機能については SDTP をそのまま使えばいいわけですから、設計も試験も効率的に行えます。

図1 SDTPの概念

 SDTP は、プロジェクト関係者を始めとして多くの方々から高く評価して頂き、たいへんうれしく思っています。しかし、SDTP の設計は実にたいへんな作業でした。この連載の第 1回目で書いた B棟 3 階セミナー室での打ち合わせの最大の課題が SDTP の仕様だったのですが、多くの所内およびメーカーの関係者の間で短期間に合意を得る必要があったために、仕様の細かなところまで詰めることができず、あらゆる点で最適な設計にすることはできませんでした。このような事態を避けるために、現在行っている将来プロジェクト用のシステム開発では、基本的な設計は本部の職員が行い、それに基づいてプロトタイプを開発し、それを徐々に拡張しながら適用範囲も広めていくという方法を取っています。

このページの先頭へ



この号の目次へ

情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか? (第7回) へ


(460 kb/ 4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME