PLAINセンターニュース第159号
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「あかり」のデータプロセッシングの現状

山村 一誠
赤外・サブミリ波天文学研究系

1. 「あかり」の現状

 赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F) は、2006 年 2月 22日に M-V 8 号機で打ち上げられ、4月 13日のファーストライト以来、現在まで順調に観測を続けている。「あかり」は、「太陽同期極軌道」を周回しており、約半年間かけて全天を見渡して観測するようになっている。「あかり」の主要任務には、全天のサーベイ観測を行い、赤外線天体の「住所録」を作成することがあるが、本観測を開始した 5月から最初の半年間に、月の影響で観測出来ない部分などを除き、約 7 割の空についてデータを取得している。現在行われている二周目の観測で、より完全なデータを得ることになる。また、「あかり」は特定の天体・領域に望遠鏡を向けて詳細な観測を行う指向観測を行っている。これは二周目の観測が始まった 11月頃より本格的に運用に入り、現在最大で一日に 18 回程度行っている。

 全天サーベイを含む、「あかり」のすべての観測装置を用いた運用は、装置を冷却している液体ヘリウムがなくなるまで続けられる。今のところ短くても今年 5月末までは観測可能だと考えられている。その後、「あかり」は機械式冷凍機と近赤外線観測装置による観測を続けていくことになっている。

2.「あかり」の観測データ

 「あかり」には、「遠赤外線サーベイヤ」 (FIS) と「近・中間赤外線カメラ」 (IRC) の二台の観測装置が搭載され、2ミクロンから 180ミクロンまでの広い波長域で観測を行える。両者は同時に動作するが、見ている視野や観測の方法、データのフォーマットが異なっているため、処理は独立に行われる。

 観測プログラムは提案方法によって、(A) 大規模サーベイ (LS: プロジェクトが遂行主体となる。全天サーベイも含む)、(B) ミッションプログラム (MP: プロジェクト関係者の有志が構成する「勉強会」が主体となって提案する)、(C) 日本・韓国・ESA 関係国からの一般公募観測 (OT)、の三種類がある。個々のプログラムで、数十から数百の指向観測を行っている。

 全天サーベイ観測のデータは、プロジェクトの責任で処理が行われ、その成果物である赤外線天体カタログなどが提供される。カタログの一般への公開は、サーベイ観測終了の二年後を目標としている。一方、指向観測データは、プロジェクトとの密接な協力の下に、各観測プログラムの遂行主体の責任で処理・解析が行われる。指向観測データの観測者への配布は、2007年 1月に開始される。

 すべての配布データには、一年間の優先利用期間が設定され、その間は観測提案者のみが利用出来る。その後、データは世界中に公開される。

3. 「あかり」観測データファイルの作成

 観測データの処理は、テレメトリデータが SIRIUS データベースに登録されてから始まる。観測装置や、姿勢系など、複数の機器からのテレメトリデータを編集し、天文データのフォーマットとして標準的な FITS 形式に変換する。
 FIS に関しては、このデータ作成のシステム構築と定常運用を、PLAIN センターと協力して PLAIN センターの提供するデータ処理基盤 DANS 上で行っている。作成されたデータは、ISAS-SAN(SNFS)/NFS 経由でプロジェクト側のネットワークにある計算機がアクセスし、キャリブレーションなどの処理が行われる。この部分は、多大なメモリと CPU 能力を必要とし、また処理プログラムが日々更新されるため、プロジェクト側で管理している。FIS のデータは、全天サーベイ観測と指向観測のデータが、ひとつながりに連続して含まれている。我々は、データベースによって時系列データファイルを管理することで、見かけ上区切りのないファイルアクセスを可能にしており、指向観測のデータは、別途もうけている観測計画のデータベースからの情報をもとに、切り出して処理を行っている。一方、IRC についてはデータの変換も含めてプロジェクト側の計算機で行っており、DANS 上ではテレメトリデータの切り出しと管理のみ行っている。これらのプロセスの技術的詳細については、別の機会に解説したい。

 現在行われている処理プロセスやキャリブレーションは、今後さらに詳細なデータの解析が進むにつれて改訂されていく。指向観測のユーザーには、処理ソフトウェアとキャリブレーションパラメータの更新によって対応するとともに、適当な機会に全データの再処理を行うことを予定している。

4. 「あかり」データの配布

4. 「あかり」データの配布 「あかり」観測データ、あるいは処理によって得られた成果(天体カタログなど)のユーザーへの配布は、PLAIN センターが運営する DARTS を唯一の窓口として行う。ヨーロッパの公募観測のデータのみ、ユーザーへの便宜のため ESAC (European Space Astronomy Centre: ESA の天文ミッションのサポートセンター) にもデータを置くが、すべてのデータを保持・管理し、将来の一般公開に備えるのは、DARTS のみである。

 プロジェクト側の計算機で処理が行われた配布データは、DANS 上に再転送され、ファイルの内容などを解説した README ファイルを作成・添付した後に、tar でパッケージされる。さらに、「すざく」の方法を踏襲して、gpg (GnuPGP) で暗号化と圧縮が行われる。暗号鍵はファイル毎ではなく、観測プログラム (複数の指向観測を含む) 毎に設定され、PI に送付される。配布データの作成と暗号鍵も含めた管理は、PLAIN センターの DARTS チームにゆだねられている。

 この原稿を執筆している時点で、FIS, IRC ともにプロジェクト側でのデータ作成と処理の最終段階にあり、1月中の配布開始を目指している。また、これと平行して、データ処理用のソフトウェアツール、マニュアルの整備も ESAC と協力して進めている。「あかり」の真の意味での成果、すなわち科学的研究の成果が出るのは、データがユーザの手に渡り、解析が始まるこれからである。歴史に残るような素晴らしい成果が上がるように、今後も PLAIN センターの協力を得ながら、努力を続けていく所存である。

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