PLAINセンターニュース第157号
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NVO summer school 2006出張報告

田村 隆幸
PLAIN センター


 2006 年の 9月6日から 14日まで、アメリカのコロラド州アスペンで開催された NVO サマースクールに参加しました。

 NVO とは、National Virtual Observatory (アメリカの VO) の略です。VO の名のもとに世界中の天文データ・カタログをネットワーク経由で標準的かつシームレスに利用するための枠組み・標準化・ツールが開発されています (詳しくは、PLAIN News 2003年3月号 あるいは天文台の JVO のウェブページ を参考にしてください)。VO は、特に

(1) 多波長観測、(2) アーカイブ、(3) サーベイ、(4) 時間変動現象、

といった科学研究を動機にしています。また、

(1) 計算機性能の向上、(2) CCDを代表とするデジタル検出、(3) インターネット、(4) データの標準化

といった技術を基盤にしています。

 このスクールの目的は、VO を用いた研究を進めることです。VO を自分の研究の「武器」として使えないかどうかを学ぶ、および、DARTS に VO をどう利用していくかを考える、という2つのゴールを持って参加しました。

 40人の大学院生、ポスドク、ソフトウエアエンジニア、データセンタースタッフが生徒として参加し、10 人程度の講師(天文学者と関連するソフトウエアエンジニア)が 5日にわたり講義を行いました。また、講義の後は 2日間の演習をおこないました。学生は、アメリカ人が 3/4程度、残りは南米、ヨーロッパ 、アジア(私のインド人)からの参加でした。私は、2004 年に続き2回目の参加です。2004 年に見た顔も何人かいたので、私と同じだなと思いました。しかし、実は、そのうちの何人かは、講師に昇格していました。

 VO の標準、ツール、アーキテクチャについて、その道の専門家から講義がありました。VO ツールの利用例の一つとして、Aladin (http://aladin.u-strasbg.fr/) と 2MASS カタログを紹介します。前者は、CDS (フランス) による開発です (A&AS, 2000, 143,33)。図1に Aladin による超銀河団領域の X線画像と 2MASS カタログ天体の重ね合わせを示しました。このツールは、イメージおよびカタログを天球上で重ね合わせて表示することができます。前者は、FITS、JPEG、GIF、PNG format に、後者は、VOTABLE、text-format に対応しています。ローカルにあるデータだけではなく、世界中のデータセンターからデータを検索・ダウンロードすることができます。                    

 
図1: 彫刻座の超銀河団領域:
X 線画像 (Suzaku 0.5-2 keV, 4 ポインティング; カラー)と 2MASS
カタログ(赤点)の重ね合わせ。図に示した3つの銀河団を含んでいます。

この図にのっている 2MASS カタログ天体の大部分は、超銀河団とは関連のない、我々の銀河系内の星です。ただし、X 線の明るい領域には、カタログ天体=銀河団の中のメンバー銀河が集中していることがわかります。2MASS のデータには、いくつかの波長域(1.3-2.2マイクロメータ)での明るさが入っていますので、それらからメンバー銀河の候補を抜き出すことができます。

 さらに、VO を用いた天文研究について、実際に研究を行った研究者から説明がありました。参考のため、VO を用いたサイエンス論文を紹介します。

  • "Automated Classification of ROSAT Sources Using Heterogeneous Multiwavelength Source Catalogs", McGlynn et al. , 2004, ApJ, 616, 1284
  • "Luminous AGB stars in nearby galaxies. A study using virtual observatory tools", Tsalmantza et al., 2006, A&A, 447, 89
  • "Discovery of optically faint obscured quasars with Virtual Observatory tools",
    Padovani et al., 2004, A&A, 424, 545

 今後、VO が発展し、天文学研究を推し進めるには何が必要でしょうか? 大量のデータとツールがあっても、そのデータへの理解とユニークなアイデアが無ければ、新しいものは生み出せれません。したがって、データを生産・提供する側は、データの質を高め、データの科学的な説明・記述を正しくおこなうことが必要です。できるかぎり世界中の多くのデータセンターが、VO 標準でデータを公開・提供して欲しいです。 残念ながら、現在は、まだそうなっていません。

 DARTS においても、今後は積極的に VO 標準を取り入れたいと思っています。天文系のカタログ検索の結果を VOTABLE で出力できるように開発中です。また、AKARI の全天カタログを公開する時には、VO 標準のサービス (SkyNode,SIAP) も実装したいと考えています。

 スクールは、前回と同じく Aspen Institute で行われました。アスペンの中心地から、車で 10分くらいの山間の中にとても快適な宿泊施設、いくつかのセミナー会場、レストランなどが集まっています。アスペンは、アメリカでも有数の高原・スキーリゾートです。休日には、バスに 1時間くらい揺られて、マローンベル渓谷に散歩に行きました。セミナー・研究会には、理想的な場所です。

 なお、今回の出張は、先端研究拠点事業予算(代表:国立天文台 大石)から援助を受けました。



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