PLAINセンターニュース第155号
Page 2

人工衛星データを用いた太陽地球物理学の研究 (2)

宮下 幸長
PLAIN センター


 前回 (2006年8月第154号) は太陽地球系物理学 (Solar-Terrestrial Physics、STP) の研究対象について概要を述べましたが、今回は具体的に、人工衛星による観測データを用いた解析の手順について、STP 分野での現状を述べたいと思います。

 まず、観測から解析までは、大まかに、人工衛星からのデータの取得、データの補正、利用者によるデータの入手・解析という流れになっています。衛星から地上まで伝送されたデータは、通常、そのまますぐに解析に使うことができず、補正や意味のある物理量への変換などが必要です。一般的に、ここまでは観測器の担当者が作業しています。そのため、実際に利用者が行う作業は、データの入手からになります。

 データの入手方法は、いくつかあります。衛星プロジェクトに参加しているかどうかや、データが一般に公開しているかどうかで、特に新しいデータは、入手方法やデータの時間等の分解能に違いがあります。データ解析をする人が衛星プロジェクトに参加している場合は、高分解能のデータも含めて、各チームが用意した、解析用データを管理しているコンピュータにアクセスして入手できるようになっています。その際、利用者登録をする必要があります。この方法により入手したデータだけを解析する場合もありますが、プロジェクトに参加していない衛星のデータを使いたい場合もあります。そのときは、まずウェブで公開しているかどうかを確かめます。各衛星プロジェクトのページや、たとえば、宇宙研の DARTS (http://www.darts.isas.jaxa.jp/)やアメリカ NASA の CDAWeb (http://cdaweb.gsfc.nasa.gov/) のような総合的なデータアーカイブスから入手します。さらに、何らかの理由によりウェブ上で公開されていないデータや、より高分解能のデータが必要な場合は、各観測器の担当者に直接、交渉します。場合によっては、先方に出向くこともあります。なお、最近は、クイックルック (QL) という暫定的なデータの図をウェブ上で見られるようになっている場合も多くなってきています。

 データのファイル形式は、アスキーのほかに、Common Data Format (CDF) と呼ばれる形式のものが増えてきましたが、STP 分野で統一して使われているものはなく、データの種類ごとに異なっています。ファイルの中のデータの並び順・フォーマットも、データの種類ごとに異なっています。

 次に、このようにして入手したデータを解析します。各種の解析をし、図を作成しますが、プロジェクトによっては、解析や図の作成をするソフトウェアを整備し、公開していることもあります。しかし、そのようなことは、あまり多くなく、基本的に各自でプログラムを作成しなければなりません。その際、データの種類やファイル形式は様々ですので、それに合わせて個別に読み込みや解析のプログラムを作成する必要があります。

 以上のように、データの入手から解析までの流れを大まかに述べましたが、STP 分野の現状では、データはあちこちに分散し、データの種類や形式も観測ごとにまちまちになっています。これは、複数衛星を使った研究や衛星と地上の観測を連携させた研究のように、多種類のデータを解析する研究をするとき、数が多くなればなるほど、データの入手と読み込み・解析プログラムの作成は、個別にそれぞれに対応しなければならないので、非常に煩わしく、悩ましい問題です。詳細は述べませんが、この問題を解消し、データ解析の効率化に向けて、最近、愛媛大学では、Solar-Terrestrial data Analysis and Reference System (STARS) (http://www.infonet.cite.ehime-u.ac.jp/STARS/) の開発が進んでいます。また、宇宙研 DARTS の STP データベースでは、この STARS のシステムを参考に更新することを計画しています。

 最後に、各種 QL データの図は、ウェブ上で閲覧できることが多いですが、これを使って、多種類のデータをとりあえずさっと調べたい場合や何か研究対象になる事例を探したい場合があります。その場合、QL データの図はあちこちに散らばっていて、データごとに一つずつウェブページを開き、期間の入力をする手間がかかります。これを省き、効率化するために、簡単なものですが、"Conjunction Event Finder (CEF)" (http://www.darts.isas.jaxa.jp/cef/cef.cgi) を作りました。これを開いて、調べたい日時を一度、入力すれば、その日時の QL 図へのリンク集ができるようになっています。まだリンク先が少ないですが、今後さらに増やしていく予定です。

 △▲このページの先頭へ



情報通信技術を宇宙科学にどう活用するか? へ

平成18年度スーパーコンピュータ共同利用追加公募のお知らせ へ


(816kb/4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME