PLAINセンターニュース第134号Page 1

パサディナ滞在記 (1)

長木 明成
PLAINセンター


  1年ぶりに日本に帰ってきて後、多くの方々のところに「帰国のご挨拶」に伺いましたが、それでも以前からお世話になっていた方々すべてにご挨拶できたわけではなかったので、所内ですれ違うたびに「いつ戻ってきたの?」「いつからここに?」と質問攻めにあうことも度々。2ヶ月ほどたった今ではそうしたこともかなり少なくなってきましたが、それも3年半ほど前にこの宇宙研を離れた時があまりにも急で、すべての方々にご挨拶できなかったことが原因のひとつではと思い、今更ながらに恐縮しています。そこで今回はこの場をお借りして、海外出張と帰国のご報告とともに宇宙研を離れていた3年半、一体どこで何をしていたのか、そこからお話を始めたいと思います。「PLAIN センターニュース」という冠に似合わない内容になるかもしれませんが、最後までお読みいただければ幸いです。

 遡ること3年半ほど前、一通の辞令が私の元に届きました。内容は「文部科学省研究開発局宇宙政策課への併任」で期間は2年間というもの。そしてこの2年間を経ると文部科学省の「宇宙開発関係在外研究員派遣制度」への応募資格が得られ、選ばれれば晴れて在外研究員になれるという続きの話がありました。2年とはいえ、これまでのPLAINセンターでの仕事とは 180度違う事務的な仕事をするということもありかなり悩みましたが、その先への興味には逆らえず、受けてみることにしました。結果としては非常に勉強になった2年間でしたが、時はまさに宇宙三機関統合前夜、これまでとは質の違う過酷な仕事が私を待っていたのでした。会議につぐ会議、資料作成につぐ資料作成、その合間を縫っての研究員公募のための準備。忙しさの中、2年間はあっという間に過ぎ去り、準備もなんとか功を奏し、在外研究員として米国上陸を果たしたのは今から1年ほど前の2003 年9月30日のこと、折しも翌日に宇宙航空研究開発機構の設立を控えていました。渡航前もぎりぎりまで海外生活のための準備をしており、これまで生きてきた中でも初めての事態に「これで大丈夫か。」「忘れていることはないか。」「手続き不備でお尋ね者になったりしないか。」など、今考えると笑い話のような心配をしていました。それでも結局は「まあ、向こうで用意できない物はないだろう。普通に人間が暮らしているのだし。」という楽観論に支配されることで心の平静を得ることができました。

 向かった先はアメリカ合衆国のカリフォルニア州、ロサンゼルス郊外にあるパサディナ市。この街にはカリフォルニア工科大学、そして米国航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)もあり、宇宙関連はもちろんのこと、多くの研究者の方々にもなじみの深い街なのではないかと思います。私も以前1週間ほどの出張でこの街を訪れたことがありましたが、そのときが全く初めての海外だったこともあり、街の印象などはすっぽりと記憶から抜け落ちていてすべてが新鮮に感じられました。一口に「パサディナ」と言っても東西 10 マイル南北5マイルくらいの広さがあり、場所場所で街の雰囲気は異なります。大学の周りはとてもアカデミックな雰囲気で静かですし、北部の山の裾野まで行くとそこは大きな家が建ち並ぶ住宅街で広い歩道に前庭の芝生も青く、いかにも「アメリカの町」然とした雰囲気です。オールドパサディナと呼ばれている古くからの中心街は週末ともなると夜半まで人通りが絶えない賑やかさですが、町南部の隣町サンマリノ市との境まで行けばとても静かな高級住宅街で、クリスマスのイルミネーションで飾られたとても綺麗な街並みも日本とは違って「人だかりで騒がしい」ということが決してありません。確かに、交差点で何度となく衝突事故を見たとか銀行の前で警官に銃を突きつけられて手を挙げている男性を見たなど「やはりここはアメリカだ」と再認識させる場面にも遭いましたが、総じて「のどかな郊外の街」というのがパサディナの印象です。

 この「のどかな郊外の街」のほぼ中心に、私が席を置いていた「米国惑星協会(The Planetary Society)」があります (図1)。この協会は、1980年に故カール・セーガン博士、ブルース・マレー博士そしてルイ・フリードマン博士により設立された、太陽系内惑星と地球外知的生命の探査を進めている団体で、JPL とも連携して宇宙探査活動を推進しています。パサディナに到着したその日にオフィスまでご挨拶に向かったのですが、ビルの一角にあるこぎれいなオフィスを想像していたところ、それは大きく覆されました。見るからに普通の住宅、それも古めかしい作りの建物がそこにありました。聞いてみると、1世紀ほど前に有名な建築家グリーン兄弟により設計・建築された建物だそうで、別のところに建っていたものをそのまま引っ張ってきて移築したものとのこと。日本の建築様式が取り入れられているので、中にいると不思議と落ち着いてきて、これなら職場環境は万全だと感じました。


図1. 米国惑星協会

 惑星協会では教育にも力を入れており、世界各地から学生を選んで実際に宇宙科学の最先端の活動に触れられる機会を用意したり、対象は少数ながらも奨学金を提供したりと、いろいろなアイデアでさまざまな活動を行っています。その中でもユニークだと思ったのは、「RED ROVER, RED ROVER Project」です。これはブロックで組み立てられたローバーをインターネット経由でどこからでも操縦できる、というもので、実際に「The Planetary Society」のホームページ (図2) からも体験できます。ブロック仕立てのローバーが火星さながらのジオラマの中を走り回るのですが、コマンドを送信してから動きを確認できるまでの時間差が、何とも言えない不思議な現実感を醸し出していて、非常にシンプルなシステムでありながら、とても興味を惹かれました。また大きなプロジェクトとしては、米国惑星協会ではソーラーセイルの打ち上げが来年3月に予定されています。これは安価で提供されているロシアの潜水艦からの打上げロケットを使って行われるのですが、宇宙の帆船が大きな帆を広げて航海を始めることができるよう注目したいと思っています。

 紙面が残り少なくなってきました。次回は暮らし始めてからのパサディナの印象と火星ローバーの着陸に合わせて開かれた惑星協会の一大イベント「Planetfest '04」の様子などお話ししたいと思っています。



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