PLAINセンターニュース第129号
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Astro-E2 衛星の運用とデータ処理(1)
- 観測公募から運用まで -

山崎 典子
JAXA/ISAS
高エネルギー天文学研究系

 X線天文衛星 Astro-E2 は、2000 年打ち上げ予定だった Astro-E 衛星のリカバリ機として、2005 年冬期の打ち上げを目指し現在総合試験中です。
 本稿では、打ち上げ前の観測立案から実際の運用に至る流れについて、構想と現状をご紹介します。


1. 観測提案の申し込み
2. 観測スケジュール作り
3. 観測データベース (ODB : Observation Data Base)
4. 運用コマンド作成など


1. 観測提案の申し込み

 Astro-E2の観測は大きくわけると、検出器の評価などのために、科学観測委員会 (Science Working Group: SWG) によって提案された観測と、公募観測の2つがあります。公募は日本枠、米国枠がありますが、日本枠の一部をESAからの提案にあて、また ESA,アメリカに属さない研究者に対しても門戸を開いております。
Astro-E2 衛星の特長であるカロリメータの冷媒に寿命があるため、冷媒がある時期を Phase-I、その後の時期を Phase-IIと呼びます。それぞれの時期での観測時間の割当は図1のようになっています。



現在、Phase-1b 1年分の公募観測(日本枠は 正味約 500万秒 (5Msec) 相当) の募集が行われており、8月が締め切りとなります。公募観測の場合、提案者に1年間のデータ占有権が与えられます。SWG 観測も原則1年ですが、Phase-1a のデータは Phase-1b の終わりに公開されます。観測データ処理や公開については、来月ご紹介しますが、PLAIN センターの DARTS のお世話になることになります。
 観測提案の受付には RPS(Remote Proposal Submission)というソフトウェアを用います。これは、ユーザーが web browser を介して、ターゲットの座標や観測時間などの情報を入力するものです。Astro-E2 では、NASA/GSFC と検出器開発において協力をしていますが、運用面でも、NASA 側の Astro-E2 ユーザーサポートセンターである Astro-E2 GOF (Guest Observer Facility) とは相互協力をしています。この RPS というソフトも、NASA の観測公募関係で広く使われているもので、日本で検出器のモード選択など衛星独自の設定を行い、日米欧で同じユーザー I/F で公開をしています。RPS を通じて観測公募を行うことで、後の観測に必要な情報を同じフォーマットで共有することができるようになっています。
 公募された観測提案は、まず日本国内で審査をし、観測運営委員会で採択を決めます。日米で同じ天体が提案された場合には、日米調整委員会で一本化を図ります。
 また突発現象に対しては全体の 3%が TOO (Target of Opportunity) 観測用に確保されており、随時受け付けるようになっています。


2. 観測スケジュール作り

 観測提案の中には、他の波長、衛星との同時観測を行うもの、連星系のある周期で観測をしたい物、など観測時期に制限のあるものもあります。また、変動の観測のため、なるべく連続的に見たいものや、ある間隔をおいて、定期的に見たいものもあります。これらの条件をすべて取り込んで、観測計画を決めねばなりません。また、望遠鏡が地球を向く時間(地没、と称します)や、バックグラウンドの高いと予想される時間(X線検出器にとっては、宇宙線粒子が最大のバックグランド源なので、Cut-off-Rigidity の小さいところや、South Atlantic Anomaly 地帯を通過する時は S/N のよい観測になりません)を除いて、実効的な観測時間が要求時間を満たさねばなりません。このような観測立案は、Astro-E2 GOF から派遣されてきた Chris Baluta が TAKO (Timeline Assembler, Keyword -Oriented) というソフトウェアを使って行っています。TAKO は基本的には、衛星を問わず使えるツールで、 Astro-E2 の前に今秋打ち上げ予定の γ線バースト観測衛星 Swift 衛星でも使われる予定になっています。
 TAKO という名前は「あすか」の頃にすっかり寿司好きになった、Alexander Antunes (愛称: Alex または Sandy) がつけたもので、多くの足をからませずにコントロールする賢い奴、という感じなのだそうです。(タコな TAKO,とか TAKO の bug とり、とか想像しないで下さい。)ちなみに衛星の Roll 角を見るツールは MAKI といいます。


3. 観測情報データベース (ODB: Observation Data Base)

 観測提案から、実際の運用へと向かうと、天体の位置や観測時間、それがスケジュールに載ったか、観測されたか、データ処理はどうだったか、など様々な情報を管理しなくてはいけません。そのために Observation Data Base (ODB) の開発を進めております。ODB は PLAIN センターの SODA システムと同様、XML ベースのデータベースで、1つの XML ファイルが1つの観測に相当します。XML は tag つきのテキストファイルなので、Xpath といわれるルールで検索をしたり、他のツールと組み合わせるのが容易です。またスタイルシートを定義すれば、人が見やすい形式にすることもできます。ODB は TAKO に天体リストを入力として与えたり、提案者の指定する観測モードをコマンド製作ソフトに渡したり、様々なツールとの I/F を持ち、かつ検索を行う必要があります。ODB を中心に、運用の様子を描くと図2のようになります。Astro-E2 の観測は典型的には1日1天体程度ですから、それほど大きなデータ量ではありませんが、10年たっても運用につかえるようなものを、と開発をすすめています。


4. 運用コマンド作成など

 衛星の運用は「あすか」同様、観測スケジュールに従い、相模原で学生を含む運用チームがコマンドを作成し、内之浦 (USC) でコマンド送信とデータの受信を行う予定です。Astro-E2 は 6 Gbits のデータレコーダーをもち、USC 34m アンテナの X-Band で 4 Mbps, 10分弱の可視時間で 2 Gbits のデータを受信可能です。X-band の高速化により、NASA の深宇宙局 (DSN) が使えないため、USC のみの運用で、1日 5パスであれば 10 Gbits/day のデータ量となります。データレコーダー全体の再生が 1パスでは出来ませんので、まず 2 Gbits 読んで、空いた隙間に次の可視までのデータを書き、次のパスでは続きを再生して、のような複雑な手順が必要です。また、衛星の姿勢制御、検出器のモード制御などもコマンドで行います。必要なコマンドを人間が考えたあと、最終的なコマンド計画ファイルは ISACS-PLN を用いて作成されることになっています。打ち上げも近づき、そろそろこの辺も製作を進めなくてはなりません。
 衛星からのデータが SIRIUS に格納されて、ユーザーに渡るところは、来月ご紹介します。



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