PLAINセンターニュース第119号
Page 1

宇宙3機関統合とPLAINセンターの今後

藤井孝蔵
宇宙輸送研究系高速流体力学部門

1. はじめに
2.統合情報化チーム
3.現在の情報化関連組織
4. 新機関における情報化関連組織
5. 情報促進会議と情報化委員会
●まとめ


1. はじめに

 本年10月,宇宙科学研究所 (ISAS) は,宇宙開発事業団 (NASDA),航空宇宙技術研究所 (NAL) と合わせて1つの機関となり,宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency; 通称 JAXA)が発足します.詳細は,宇宙研ホームページなどを参照していただくことにして,ここでは新機関における情報化関連組織,新機関としての情報化戦略,その中での PLAIN センターの位置づけについて,ご報告します.本来,PLAIN センター長からご報告すべきところですが,所長,センター長の指示で(PLAIN センター運営委員という立場で)宇宙研代表として新機関の情報化戦略に関して,この1年余り他2機関の代表と「統合情報化チーム」で議論を行ってきた関係で私藤井の方から報告させていただくものです.すでに移行準備会議,機関長会議において承認され,職員等にも示された事項のみを記載しますが,正式には10月をもってスタートするのですべて「予定」であるとご理解ください.

 なお,新機関は,宇宙基幹システム本部,宇宙利用推進本部,総合技術研究本部,宇宙科学研究本部の4つの本部から構成されますが,その中で総合技術研究本部は筑波,調布キャンパスに分かれます.宇宙科学研究所は,宇宙環境利用研究系や Selene プロジェクトチームなどを新たに加え宇宙科学研究本部(英文名称 Institute of Space and Astronautical Science; 略称 ISAS)となり地理的にはこれまで同様相模原が中心となります.独立した研究機関ではありませんが,当本部だけが特別に大学共同利用機関の性格を維持することは機構法に明記されているため,組織上変更点はありますが,運営方法は現在の宇宙科学研究所と大きくは変わらないと考えて頂いて結構と思います.


2. 統合情報化チーム

 新機関への移行に伴って多くのタスクチームができました.PLAIN センターが関連するのは主に「統合情報化チーム」です.他の移行チームと異なり,統合情報化チームでは IP アドレス,ドメイン名やメールアドレスの変更,サーバー移行,機構共通財務システム開発やそのための機構内ネットワーク敷設などたくさんの具体的作業をこなすことも大切な任務でしたので,ネットワーク,財務システム,広報(後に分離)の3つのサブチームを作り作業を進めてきました.親チームの仕事は,各サブチームの進行状況の確認と3機関内の調整,加えて今後の情報化戦略の議論です.それぞれの主張を調整するのは大変な作業で,苦労話を言えばきりがありませんが,それなりの合意に達し,現在に至っています.具体的なことについては10月になってから別途案内があるものと思いますので省略しますが,新機関名称が JAXA,宇宙科学研究本部名称が ISAS となることは決定していますのでこれらがドメイン名やメールアドレスに使われることになります.メールアドレスは当面旧アドレスを併用しますので心配はありません.


3.現在の情報化関連組織

 現在の3機関において PLAIN センターの活動に関連ある組織と主な活動状況は以下の通りです.

【ISAS】

PLAIN センター 

大学共同利用機関として,科学衛星データベースに関する研究,開発およびその運用,衛星運用計算機,スーパーコンピュータ(スパコン)など大型計算機,ネットワークの運用.
【NAL】 CFD 技術開発センター  CFD(流体の数値シミュレーション技術)などシミュレーション技術の研究開発とスパコンなど大型計算機,ネットワークの運営.
【NASDA】 高度情報化推進部 ネットワーク管理・運用,業務運営
革新的情報技術開発グループ 研究開発業務の高度化,情報技術の研究開発
技術研究本部システム解析・ソフトウェア研究開発センター 同上

 ざっとですが,NAL のセンターにはおよそ20名,NASDA 情報化推進部には約40名,その他の部署に約20名程度が在籍しています.PLAIN センターは(実質も含めても)教官,技官をあわせて10名に満たないですし,予算面から言っても最も小さな組織です.ちなみにスパコンだけの予算規模で言うと NAL 調布本所の設備 NWT-III は ISAS のざっと10倍,NAL 角田センターの数値エンジン設備ですらISASの数倍です.地球シミュレータ開発に協力していたこともあって,NASDA には現在スパコンはありません.NASDA における情報技術の研究開発とは,ロケット,衛星などの企画,設計,製造,運用に係わる業務に情報化技術を取り入れ,期間短縮と信頼性向上を図るもので,その内容は開発中の衛星などに関する技術研究開発(既存 IT)と VR(バーチャルリアリティ)やコンカレントシステム技術などを将来取り入れるための技術研究開発(先端IT)の2つに分類されています(と思います−何せ NASDA 内の情報化はとても複雑なので正確さを少し欠いていてもご容赦ください).

 これら他機関の組織と PLAIN センター(利用者の便なども含む)との共通点と異なる点とをまとめると下記のようになります.

【NAL CFD センターとの共通点】
00 ネットワークおよび計算機(特にスパコン)の運用
計算機利用技術(並列化,可視化,シミュレーションソフトウェアなど)
【NASDA との共通点】
00 ネットワークの運用
データベース,特に工学データベースに関わるもの(宇宙研で言えば EDISONなど)

 なお,地球環境利用研究センター(EORC)の地球観測関連のデータベースは諸事情から統合情報化移行チームの議論には含まれておりません.将来,宇宙科学データベースと並べて議論することが望まれます.


4.新機関における情報化関連組織

 さて,移行によって生まれる新機関の情報化関連組織を下記に示します.

【宇宙科学研究本部】
PLAIN センター
(名称変更の可能性あり)
引き続き大学共同利用機関的な形でこれまで同様の研究・開発を行う.
【総合技術研究本部】
情報技術開発共同センター 旧 NALCFD センターと NASDA 革新ITグループ,システム解析・ソフトウェア研究開発センターなどを統合して機構としての高度情報化 (CFD 技術,計算力学技術を含む)と革新技術開発研究を行う.
【HQ (本社)】
情報化推進部 ネットワーク管理・運用,業務運営,一部情報関連研究開発

 情報技術開発共同センターに NAL, NASDA の高度情報化と革新技術開発研究をまとめることは私たちが主張して了承されたものです.仕事のスタイルはかなり違いますが,これにより,宇宙開発の現場に係わる研究開発と NALCFD センターの高度な技術力を持った研究者との連携が高まることが期待されます.PLAIN センターは他の本部の情報化とは業務に隔たりがあることと大学共同利用という特別の観点から,またスパコンなどは運用を急に変えるのは難しいという観点から,当面はそれぞれ担当本部が責任を持って行うことになりました.総じて言えば,PLAIN センターの活動は今まで通りで,移行に伴った大きな変化はないということです.

5. 情報促進会議と情報化委員会

 他機関への気配りも必要なので,書きづらい面もありますが,ここが大切なところです.新機構として情報化戦略を考え関連予算を効率良く有効に利用するために本部横断的な議論の場を作ることを宇宙研から提案しました.PLAIN センターはちょっと資金不足ですが,他の2機関における情報化関連予算はかなり大きなものです.大きな予算を使う限りは(いや小さな予算でもですが)その有効性を十分吟味しておく必要があります.PLAIN センターの主な活動からは離れますが,衛星やロケットの設計プロセスの効率化,信頼性の向上,高度なシミュレーション技術の適材適所(ここが大切!)利用に向けた体制作りなどは新機関の価値を高め,国の宇宙開発を前進させるものとして是非必要でしょう.科学衛星データベースも本来ならば地球観測のデータベースと議論・協力して進めるとより良いものとなるでしょう.これら情報化技術は新機関にとって強化すべきものであることは言うまでもありません.一方で,一見先端的なソフトウェアシステムや装置であっても結果として単に話題性しか残らないようなことに大きな予算配分をすることは避けなければなりません.研究者はそれぞれ主義主張がありますから,それらを正面からぶつかり合わせて,納得できる形に集約することが必要です.実際に,移行まではとても時間がとれませんが,丸一日かけた議論から本部横断で議論を進めるべき話題がいくつか挙がりました.工学(とりあえずは運用も含めた衛星関連)データベースはその一つです.

 統合情報化チームでは,互いに活動を知らないと話が進まないと考えて,自主的に各研究項目と予算規模を出し合い,丸一日かけて議論する機会を作りました.宇宙研からも私を含めて4〜5名が出席しました.私見ですが,是非進めるべきという印象を持ったものも疑問符がつくと思われるものもありました.また,各機関で内容の重複した研究や開発,互いの経験を議論しあえばもっと合理的に進むだろうと思われるものもありました.私たちは,こういったものを整理するための議論の場として新機関に「情報化委員会」を設置することを提案し,了承されました.ただし,これまで NASDA 内での情報化が外部の情報技術専門家のアドバイスの下で進めてきた経緯があり,顧問を中心とした組織「情報促進会議」を継続させる必要がありました.また,私たちとは違った視点を持たれている方々ですので,ある意味で意見をお聞きするのは有意義でもあります.そこで,具体的な議論や方向付けの案は情報化委員会が作り,それを受けて促進会議で議論し,また必要に応じてトップダウンの指示も加えるという形で整理しました.情報化委員会は,およそ現在の統合情報化親チームの後継のようなもので,各本部の実際の情報化担当者,HQ 情報化推進部長,などを中心にメンバーを組み,今と同様に必要な項目に関してはサブチームを作って個別に議論することになっています.情報促進会議は,情報化担当顧問,情報化担当役員,情報化推進部長,経営企画部長に各本部情報化代表が加わる形を想定しており,いわば二人三脚で JAXA 情報化を進めていく予定です.

 大学のみなさんには NAL の巨大スパコンが利用できればいいなと思われている方も多いと思います.また,シミュレーション技術や並列化,可視化など計算力学的な技術交流も必要でしょう.いかにして研究交流を進めるか,これらも「情報化委員会」で議論すべき項目です.すぐには難しいかもしれませんが,本当に必要な研究に対しては何とか現 NAL のスパコン,NWT-III を利用できるような方向に進めるように努力していきたいと思います.

 PLAIN センターの活動は,すでにお話したように統合以前と以後とで大きく変わることはありません.研究内容から考えて,ほぼ本部単独で活動を考えても問題ないと思います.しかし,当然のことながら他の関連活動グループ同様,私たちが提案した情報化委員会の議論に含まれるべきだと思います.これまでの PLAIN センターは宇宙研所内と大学共同利用のコミュニティーを意識して活動してきたわけですが,加えて今後は他本部,また JAXA としての活動を意識したものへと考え方を広げていくことが望まれようになるだろうと思います.情報化委員会の影響を受ける側面は出てくるでしょうが,大学共同利用を維持する観点から,これまで通り宇宙科学研究本部内の計算機運営委員会と、半数以上の委員を大学等外部関係者で構成する宇宙科学情報解析センター運営委員会を実質的な意思決定の場として進めていくものと思います.

 以上,整理が十分ではない点もあるかとは思いますが,ここ1年足らずの情報化関連部署の新機構移行作業について PLAIN センターや利用者のみなさまに関連する項目を説明させていただきました.

 情報化の移行作業は,長瀬センター長,篠原さん,笠羽さん,三浦さん,松崎さんら PLAIN センター関係者,また大熊契約課長補佐をはじめ事務の方々と議論を交わしながらここまで進めてきました.移行に伴い多数のチームが出来ましたが,統合情報化チームでは今後の戦略策定に向けた基礎作りまで出来たのではないかと思っています.私自身,これ以外にも複数の移行作業を担当していたため目の行き届かないことも多かったと思います.この場を借りて皆様の御協力にお礼申し上げます.

 最後に,センター名の変更です. 現在の PLAIN センターの正式名称は「宇宙科学企画情報解析センター」ですが,10月からは,「宇宙科学情報解析センター」となります.英文名は PLAIN センターを残す方向で議論が進んでいます.



この号の目次へ

日本福祉大学生10日間PLAINセンターで恒例の研修


(20.8kb/ 4pages)

Next Issue
Previous Issue
Backnumber
Author Index
Mail to PLAINnewsPLAINnews HOME