PLAINセンターニュース第109号
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SODA (SOlar Database & Archive) 計画

下条 圭美
国立天文台・野辺山太陽電波観測所

 1991年の太陽観測衛星「ようこう」の打ち上げ以降、複数の太陽観測衛星が打ち上がり、地上観測まで使えばγ線から電波まで非常に広い波長域を同時に観測する機会が増えました。下の図はその一例で、太陽風の擾乱源の一つである、プロミネンス放出現象を電波(左上:野辺山電波へリオグラフ)、X線(右上:ようこう・軟X線望遠鏡)、極紫外線(下:SOHO・極紫外望遠鏡)で同時観測した例です。電波と極紫外(左下)では1万度〜8万度の低温プラズマが太陽の北東(左上)のリムから噴出している様子が見られ、X線では、噴出現象発生領域の太陽表面でフレアが発生し、高温プラズマ(200万度以上)が生成されている様子がひと目でわかります。このように多波長同時観測データは、現象の物理的解釈をする上で非常に強力なデータになります。しかし、太陽観測はいつ発生するかわからないフレア等を観測するために毎日観測するので、観測データの総量は膨大なものになります。その中から研究対象の現象を、さらに多波長で同時に観測されたイベントを探し出すのは、大変な労力を必要とします。

 このようなデータセレクションにはデータベースシステムが威力を発揮するのですが、太陽研究の世界では観測装置を横断したデータベース、特に検索システムが付随したデータベースが存在しません。また観測データが、各観測所や観測装置を開発した研究所で保存されているため、研究者はイベント毎にいろいろな所からデータを取得して、そのイベントが観測されているか調べなければなりません。観測データがインターネット上にあればまだしも、多くの地上観測データの場合はDATテープやCD−ROMに記録されて書庫等に保存されています。もしこれらの観測データが欲しい時は、観測所の関係者にデータを郵送してもらわなければならない事が多々あります。

 この状況を打開すべく、国立天文台と宇宙研が中心となり、SODA(SOlar Database and Archive)計画を立ち上げています。本計画は多波長観測データのより良い解析環境を整備するため、1:波長横断的なデータ解析環境の提供、2:日本における太陽データ集積サイトの形成、3:波長横断的データマイニングシステムの構築、の3つを目標に掲げています。ここからは、この3つの目標を実現するための具体策や問題点を示していきます。

1)波長横断的なデータ解析環境の提供

 「ようこう」以降の太陽観測衛星のほとんどと、いくつかの地上観測装置のデータは、RSI社製IDL(Interactive Data Language)*1というデータ解析ソフトウエアとロッキード・太陽天体物理学研究所のFreeland氏によってメンテナンスされている、IDL上に実装された太陽データ解析パッケージSSW(SolarSoftWare)*2とを使って解析できます。国立天文台・天文学データ解析センター(ADAC)*3では、共同利用端末群*4にIDLとSSWがインストールされているので、台内・台外者を問わず、アカウントの取得手続きさえすれば、この多波長観測データ解析環境を使えます。ただし、日本国内の地上太陽観測装置の中でSSWに登録されているのは、野辺山太陽電波観測所の野辺山電波へリオグラフと野辺山偏波計だけです。今後は、その他の地上観測データ解析プログラム群をIDL上に実装しSSWにマージすることが課題となっています。

2)日本における太陽データアーカイブの形成

 宇宙研PLAINセンターでは、世界の科学衛星のデータを収集し、DARTSでデータを供給しています。これは太陽観測衛星も含まれており、「ようこう」を筆頭にTRACE・RHESSIといった太陽観測衛星のデータをDARTSから取得することができます。一方地上観測は、前述した通り、観測データの多くがネットワークから取得することができません。またフォーマットも各観測所独自のモノが多く、たとえFITSフォーマットでセーブされていても、FITSヘッダーに太陽観測に特化した規定が無いので、情報の入り方がまちまちです。そこでSODA計画では、太陽地上観測用のFITSヘッダーを策定後、定常的に行われている地上太陽観測のデータを国立天文台で収集し、宇宙研と共にネット上での太陽観測データの公開を行いたいと思っています。まず手始めに、太陽地上観測用FITSヘッダーの構築を行っています。

3)波長横断的データマイニングシステムの構築

 先に述べたように、太陽観測において観測機器を横断した、特に衛星観測と地上観測まで内包したデータベースおよび検索システムはまだどこにもありません。指数関数的に増大していく観測データに対応すべく、2)で構築したデータアーカイブおよびフォーマットを基に波長・観測機器横断的なデータ検索システムを構築し、多波長データの取得を簡単にできるようなサービスを行いたいと考えています。具体的には、WEB上で時間と領域座標を指定すればその領域の多波長データをクイックルックでき、それらの観測データの取得ができるシステムを構築する予定です。将来的には、検索項目にSolar Geophysical Data*5に記載されているフレアのリストや黒点の番号等を含め、これらを指定することだけで多波長データの取得が簡単にできるようにしたいと考えています。また天文台−宇宙研間はスーパーSINETの太い回線で接続されていますので、SODA計画ではこの回線を有効利用し、地上・衛星観測のデータベースシステムの結合を考えています。

 2005年夏季には、現在宇宙研で開発中のSOLAR−B衛星が打ち上がります。SOLAR−Bは、一つの衛星で可視光からX線まで多波長観測を行う事ができる太陽観測衛星です。SODA計画は、SOLAR−Bでのデータマイニングおよびデータ解析環境のテストベットとしての役目も果たしていこうと考えていますので、皆さんのご協力をお願いします。

*1: http://www.rsinc.com/
*2: http://www.lmsal.com/SSW/
*3: http://www.cc.nao.ac.jp/
*4: http://www.cc.nao.ac.jp/cc/public/documents.html
*5: http://www.ngdc.noaa.gov/stp/SOLAR/sgdintro.html


(152kb/ 2pages)

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