ISAS NEWS SPECIAL No.8

Special-008

 宇宙科学研究所が1997年2月に打ち上げた電波天文衛星「はるか」の最近の興味深い成果をご紹介します。


M87のジェットの正体

 乙女座,かみのけ座の方向,約5千万光年の距離を中心として,約2500個の銀河が群れています。この銀河群の中心部に位置する最大級の楕円銀河M87は,中心から1万光年ほどの長さの光のジェットが出ており,アメリカ国立電波天文台(NRAO)のVerry Large Array電波望遠鏡(VLA)の観測によれば,光のジェットに対応した電波のジェットも見られます。さらにジェットの外側に,さしわたし40万光年もの電波の輻射が周辺宇宙に広がっているのが,波長90cmの電波で観測されています。またハッブル宇宙望遠鏡(HST)によるM87中心部の光のスペクトルの解析によって,ジェット方向を軸として回転する様子をつきとめ,太陽の24億倍の重さの質量が集中していることが計算されています。これがブラックホールだとすると,その半径(シュワルツシルド半径)は70億km,冥王星軌道がすっぽり入る大きさです。

 「はるか」とVLBAは共同して,波長18cmで観測を行いました。観測の解像度は千分の1秒角で,ブラックホールの直径の300倍のサイズが見分けられます。M87のジェットの付け根に着目すると,ジェットは緩やかな1光年ほどのピッチの螺旋を描いています。中心から次第に暗くなり,10光年ほど先までこの模様を見ることができます。この緩やかな螺旋がひろがらずに,数千光年にもわたる細いジェットをつくりだしているのは,とても興味深いことです。

 VSOPでは引き続き波長6cmで,ジェットの形の変化を見るために4回の観測を行いました。この波長では解像度はさらに3倍にあがり,ブラックホールの直径の100倍のサイズが見分けられます。ジェットの付け根は不思議な形で始まります。ハッブル宇宙望遠鏡はずっと大きなサイズで観た時に,ジェットが見かけ上光速の6倍の速さで外に噴き出しているような変化をとらえています。しかし,VSOPではそのような変化は見られません。私たちは,ジェットの付け根での異なる状況を見始めているようです。


 
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