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No.221 |
ISASニュース 1999.8 No.221 |
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「はるか」が結ぶネットワーク米国国立電波天文台1967年にカナダのグループが世界最初のVLBI観測に成功してから,遅れること数ヵ月,アメリカのグループもVLBI観測に成功しました。この観測から,遠距離にある銀河やクェーサからの電波放射が,非常にエネルギーが高く,しかも非常に狭い領域から出ていることが分かりました。VLBIの解像度は約1000分の1秒角(360万分の1度)です。これは,札幌にある納豆の粒を鹿児島からみることに相当します。たくさんの電波天体が,VLBIにより米国,欧州,豪州そして日本等の国際的なグループによって研究されました。 VLBIの解像度を上げるためには,複数の望遠鏡をできるだけ離して置かなければなりません。1980年代にはいって天文学者達が宇宙に電波望遠鏡を置くことを考え始めたのは自然な流れでした。しかし,欧州,米国,そしてロシアのスペースVLBIのプロジェクトはことごとく予算獲得に失敗しました。結局,日本が1997年に最初の電波望遠鏡を宇宙に打ち上げることになりました。 VSOP計画は宇宙科学研究所によって1989年から始まりました。このプロジェクトには,衛星だけでなく,地上の望遠鏡,衛星の受信局が必要で,さらにこれら複数の局のデータを処理して,天体画像の処理をする必要があります。このため,国際的な協力が必須でした。多くの国々がさまざまな技術や設備をもっており,喜んでこの国際プロジェクトに参加しました。 米国国立電波天文台(NRAO)は1991年から,VLBA(米国のVLBI型干渉計)を運用してきました。VLBAは米国内に東西に分布する10台の電波望遠鏡からなり,本部はニューメキシコ州のソコロにあります。VLBAは,優れた相関器と画像処理システムをもった,世界でもっとも成果を出しているVLBI装置です。宇宙研とNRAOの国際協力は,VSOPプロジェクトが始まってから,すぐに始まりました。 NRAOは4つの項目についてVSOPプロジェクトへの貢献を果たしてきました。1つめは,VLBAの全観測時間の30%をVSOPに使用することを決めました。VLBAへの観測申し込みに対する倍率は約2倍で非常に人気のある観測装置です。これは,NRAOや世界中の天文のコミュニティが,VSOPプロジェクトがよい観測結果を出すためのまたとないチャンスであり,そのミッション期間が3〜5年と限られているため,できるだけ最適な地上望遠鏡を使うべきであると感じていたからです。 2番目の貢献は,NASAは5つの内3つの「はるか」の衛星受信局を提供し,NRAOは1つの衛星受信局を建設しました。この衛星受信局は非常に信頼性があります。 3番目に,「はるか」と地上電波望遠鏡の信号を合成する相関器です。これは,テラフロップス(浮動小数点演算回数が1秒間に1兆回)相当の処理能力をもつ専用計算機です。VLBAの相関器を,スペースVLBIでも使用可能にするために,2年あまりの改修作業が必要でした。VLBAの相関器は,VLBA,NASAのDSN70m望遠鏡,および欧州の望遠鏡からのデータの処理に使用されています。 最後に,クェーサーからの微弱な電波信号から,高解像度の画像を作成するデータ処理ソフトウエアです。このソフトウエアは,すでにVLBAのためにNRAOで開発されていました。このソフトウエアを用いVSOPのデータも扱えるようにするため改修を行いました。この処理ソフトウエアはミドルクラスのワークステーションで簡単に動作させることができ,世界中の100以上の天文台に配布されています。ほとんどの天文学者は,VSOPのデータを自分の研究室で処理することができます。 NRAOは,解像度や感度がさらに良くなる将来のスペースVLBI計画に期待しています。世界中の天文学コミュニティが,VSOPで得た経験を活かして,さらなる,科学的な進歩を達成できるでしょう。 (米国国立電波天文台・E.Fomalont )訳:村田泰宏 |
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