はるか」による22GHz観測の成功
「はるか」は,スペースVLBI観測の技術試験と観測を目的とした衛星です。1998年9月18日号のScience誌にその初期成果がまとめられていますが,そのなかで1.6GHz帯と5GHz帯と22GHz帯の3つの観測周波数帯のうち22GHz帯の観測が成功していないことが述べられています。今回は,この22GHzの観測の『成功』について紹介しましょう。
「はるか」を用いた22GHzでのスペースVLBI観測は世界でもっとも高い解像度を持つ天体の画像の観測が実現でき,100マイクロ秒角(4000万分の1度)の解像度を達成できます。この観測を成功させるためには,たいへん高精度な軌道決定と位相伝送技術が要求されます。衛星の軌道決定の誤差は位置で10m,速度で毎秒5cm程度を達成できました。これは従来の軌道決定精度に比べて格段の精度です。また地上の受信局に設置した高精度時計,水素メーザ発信器,からの基準信号を衛星に送信する精度も時間間隔の相対誤差にして10兆分の1程度を達成していることが実証できました。
観測天体はオリオン座のオリオン大星雲(M42)のなかにある水メーザ天体で,観測は1998年3月に行われました。地上電波望遠鏡としてはアメリカ国立電波天文台のVLBA(Very Long Baseline Array)の10局を使用しました。得られた電波強度マップを示しました。オリオン大星雲は約1500光年の距離にあり,非常に活発に星が誕生していることで有名です。この星雲にある水メーザ天体の強度が1998年1月より急激に明るくなっていることを鹿児島大学理学部のグループが鹿児島にある6m電波望遠鏡を用いて発見しました。この情報をもとに「はるか」はこの天体を観測し,22GHzでの画像を得ることに成功しました。この観測の時期にこの天体は通常の100倍以上に明るくなっていました。「はるか」は打ち上げ後に22GHzの観測系に大きな信号ロスが発生していることが確認され,通常の明るさの天体の観測は困難でしたが,幸運にもこの非常に強い天体の出現で観測が可能になりました。水メーザ天体は,約1億kmの大きさを持っていることが明らかになりました。これは太陽と地球の距離に匹敵する大きさです。従来の観測ではこの天体の大きさを分解することはできずに点源にしか見えませんでしたが,「はるか」の観測により像を分解することができ構造がわかりました。メーザの発振機構や急激な増光の原因については未だ定説がなく,「はるか」の観測によって今後の研究の進展が期待されます。
(小林秀行)