No.221
1999.8

ISASニュース 1999.8 No.221 


- Home page
- No.221 目次
- 特集号によせて
- 「はるか」がなし遂げたこと
- 「はるか」
- 萩野慎二
- 大型パラボラアンテナの展開まで
- 井上登志夫
- 「はるか」の姿勢制御
+ 軌道を決める
- VLBIのための観測システム
- 紀伊恒男
- 干渉計/VLBI/VSOP
- VSOPミッションとその成果
- 『活動銀河核』とは
- ジェット
- 波長と周波数
- シンクロトロン放射
- 宇宙で最も「明るい」銀河
- BL Lac天体の偏波観測
- 活動銀河核3C 84のジェットと電波ローブ
- VSOPサーベイ観測
- 「はるか」による22GHz観測の成功
- メーザー
- 臼田Kuリンク局
- 三鷹相関局
- 地上電波望遠鏡
- 通信総合研究所,鹿島34mアンテナ
- 米国国立電波天文台
- NASAジェット推進研究所
- VSOP,夢がかなった!
- VLBI,思い出すままに
- はるか物語
- 呑み屋での話?
- 編集後記

- BackNumber

軌道を決める



 「はるか」は,打ち上げ後,近地点高度を上げる軌道制御が3回にわたって施され,近地点高度約560km,遠地点高度約22,000km,軌道周期約6.4時間の地球周回楕円軌道に達した後,遙か彼方の電波星のスペースVLBI観測を行っています。VLBIの観測では観測を行う複数の観測局の位置・速度を高い精度で知っていませんと,各々の観測局で観測した電波の波面を合わすことができず,天体の画像を合成できません。このため,「はるか」が行うスペースVLBIの観測では衛星自身の位置・速度を高精度で決定する軌道決定が観測の成否を決める重要な要素となります。

 軌道決定は地上局−衛星間通信におけるレンジ(測距)・ドップラー(距離変化率)のデータを用いて行われます。「はるか」では,従来の衛星と同様に鹿児島局でS帯(2GHz)によるレンジ・ドップラーデータを取得する他に,臼田局で10mアンテナによる新方式のKu帯(15GHz)の高精度ドップラーデータを取得しています。更にVLBI観測の国際協力として,米国のジェット推進研究所(JPL)のDSN(Deep Space Network)の3受信局,および国立電波天文台(NRAO)のグリーンバンク局でKu帯のドップラー観測が行われています。これらのデータが宇宙研とJPLの研究者により精度に関する解析・評価に用いられています。

 軌道決定の精度は観測データの計測精度に依存しています。その誤差要因としては,取得する受信局の位置,データを取得するための計測装置の分解能,計測装置で用いる時計の精度等があります。これに軌道決定する際の軌道運動,レンジ,ドップラーの観測モデルによる誤差成分が加わります。軌道決定結果は,図に示したような,観測値と計算値の差などで評価できます。理想的には観測値にノイズがなければこれらの差は零の線上にきます。しかし,実際にはノイズ成分に加え非線形な量が含まれているため完全に零とすることはできません。臼田局のドップラー計測による視線速度の精度は図からも判るように,毎秒2.3 mm(局−衛星間往復)程度,DSN局は毎秒1.1 mm(局−衛星間往復)程度,鹿児島局のドップラーは毎秒約3mm(局−衛星間往復)であり,レンジ計測による距離の誤差は約5m程度です。これらのデータを用いた軌道決定精度は,軌道11周回中の2回の受信時間帯のデータを用いるとき,位置にして200m〜500m,速度で毎秒1〜3cmとなります。


 「はるか」では,正確に天球上の位置が判っている電波星を用いたVLBI観測自身によって,軌道決定で決められた衛星の位置・速度にどの程度誤差があったかを逆に評価できます。言い替えれば,レンジ,ドップラーという受信局−衛星間の視線方向の観測データにVLBI観測によって得られた電波到達遅延時間を加えることで精度を向上させることができます。軌道決定の応用として,このVLBI観測による情報を加える研究が進められており,宇宙研でも将来の惑星探査機の軌道決定等に応用される貴重な実験になることでしょう。工学実験として軌道決定精度のゴールはどこに?ということは常につきまとう課題といえます。

(市川 勉)



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