No.221
1999.8

ISASニュース 1999.8 No.221 


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- No.221 目次
- 特集号によせて
+ 「はるか」がなし遂げたこと
- 「はるか」
- 萩野慎二
- 大型パラボラアンテナの展開まで
- 井上登志夫
- 「はるか」の姿勢制御
- 軌道を決める
- VLBIのための観測システム
- 紀伊恒男
- 干渉計/VLBI/VSOP
- VSOPミッションとその成果
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- 米国国立電波天文台
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- はるか物語
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- 編集後記

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「はるか」がなし遂げたこと

 「はるか」は,打ち上げ前の名称MUSES-Bが示すように,工学実験衛星として立案されました。目的はスペースVLBIに必要な工学技術の実験を行うことでした。M-Vロケットの初号機により予定の軌道に打ち上げられ,スペースVLBIによる電波天文観測に成功を収めた現在,「はるか」は,世の中では,海外を含めて,電波天文衛星と見なされています。

 宇宙研の工学実験衛星の定義は,科学観測のための衛星に先立って,それに必要な工学技術の実験をあらかじめ行う,というものですが,「はるか」の場合,一つの衛星で,工学実験と科学観測をともに行なってしまったことになります。この二重の役割は,実は,MUSES-Bの計画が始まった当初から予定されていたものでした。

 MUSES-Bの開発が始まったばかりの1989年12月,宇宙研でスペースVLBIの国際シンポジウムが開かれていますが,そこには13カ国53名に達する海外の研究者が参加しました。MUSES-Bによって電波天文観測が行えるという期待があってこそ,その人達は,はるばる海を越えて相模原まで来られたのでした。衛星の開発と,観測のための国際協力の体制作りは,MUSES-B計画の開始当初から平行して進められました。スペースVLBI観測のためには,海外の電波天文台や宇宙機関の協力は欠かせません。MUSES-B計画は始めから広い国際性をもつものとなっていました。

 MUSES-Bが目標とした主な工学的課題は,大型パラボラアンテナの展開と精密な鏡面の形成,大型の構造物をもつ衛星の姿勢制御,低雑音の受信,大容量データ伝送,位相基準信号の地上から衛星への伝送(フェーズトランスファー),精密軌道決定,相関処理技術などでした。これらの基本的な部分は衛星打ち上げ後全てが達成され,「はるか」は,スペースVLBIのための電波望遠鏡衛星として機能しうるものとなりました。

 実験の経過を振り返ってみます。1997年2月12日の衛星打ち上げからおよそ2週間経った2月24日から28日にかけて,有効直径8mの大型アンテナを,無事展開しました。この展開は「はるか」において最も難度の高い実験とみなされていたものでした。3月12日には,「はるか」と臼田の専用地上局の間で,フェーズトランスファーと大容量データ伝送のリンクが成立しました。3月24日には,アンテナを水酸基メーザー源W49Nに向け,天体からの電波を初受信しました。5月に入って干渉実験へと進み,「はるか」と臼田の64mアンテナがPKS1519-273というクェーサーを観測したデータについて,5月13日,干渉縞の検出に成功しました。この干渉縞の初検出は,「はるか」と,併せて開発した関連地上系が,スペースVLBIのためのシステムとして機能することを実証したものでした。この段階で「はるか」の工学実験の主要な目標は達成され,世界最初のスペースVLBIのための衛星が実現しました。6月中旬には,NRAO(米国立電波天文台),JPL(米国ジェット推進研究所)等との協力のもとに,クェーサーの初のイメージングに成功しました。それ以降,「はるか」が,世界に拡がる国際協力のもとに,多くの実験的成果,観測の成果を挙げてきたことは,本特集号においても詳しく述べられる通りです。

 「はるか」は宇宙研の新型ロケットM-Vの初号機によって打ち上げられました。M-Vの開発は1990年に始まっており,MUSES-Bの開発・製作はそれと平行して進行してきました。「はるか」の成功はM-V初号機の成功を併せて飾るものとなり,「はるか」はM-V初号機と一体となって歴史に残ることとなりました。

 「はるか(MUSES-B)」チームは,宇宙研,国立天文台を中心とするメンバーと,衛星や地上系の開発・製作を担当頂いたメーカー各社の大勢の方々からなります。MUSES-Bの開発の過程で,そして軌道上での実験・運用においてさまざまな難関に出会いましたが,チームが一体となった取り組みと担当の方々の献身的な努力によって,それらを乗り越えてくることができました。「はるか」によるスペースVLBI観測では,アメリカ,オーストラリア,カナダ,他の数多くの研究者が海を越えて「はるか」チームの一員となり,大きな貢献をされました。スペースVLBIのための衛星を実現したこと,スペースVLBIのための国際協力を成立させたこと,そして数々の電波天文観測上の成果から,「はるか」は,さらに,次の世代のスペースVLBI衛星への道を確実に開いたものと思います。「はるか」をご支援いただいた研究所内外の多くの方々に,この紙面を借りて,心からお礼を申し上げます。

(廣澤春任)


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