No.194
1997.5

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2.4   猛練習は宇宙を制す dashRS練習

 M-Vロケットは全段新規開発かつ尾翼なしの空力不安定機体なので,初号機打上げに当たっては,RS( Range Safety:発射場保安)として想定すべき飛翔中の不具合や異常飛翔のモードは,特に1段目の飛翔についてこれまでのM-3Sと比べて状況の判断のための時間も短く,かつRSコマンドの多くがミッションの放棄につながるため,まずはシステムをよくおさらいすることから始めた。  幸いRS班の森田君はTVC班と兼任かつ機体ダイナミクス解析担当で,ソフトとハードの両面ともシステムの理解の程度は今回の打上げメンバーの中でもピカイチだから,いろいろな不具合モードやその結果起きることの想定は十分な理解の上で本番に臨むことが出来た。

 恒例にして人気のRS練習は,飛翔中のロケットに対する処置の判断を下す飛翔安全総括チーフに対して誘導,追跡,テレメータ,CNE(姿勢制御装置電気部),計測などの各班が芝居を打つわけだが,問題作成に当たってはこの意味で出題者の技量と理解の程度も試され,いかに気の利いた問題を出すかに,いつものことながら腐心する。RS系統の指令電話には各班の演技達者がそろうが,最終段のスピンレート報告をするSA(衛星)班の廣澤先生は迫真の演技をされるので,今後の練習には必ず登場してもらいたい。

 今回のオペでは前号機までと比べて地上系も含めていろいろなシステムが変わったこともあり,異常に備える意味でM管制室の発射前のエマスト(緊急停止)練習と飛翔中の保安のためのRS練習(これはコントロールセンタが中心)を合同で行うこととなった。エマスト練習はM管制室内全員に対していつどこからエマストがかかるか分からない緊張状態を作って安全な状態でシーケンスを止める手順の練習をするのに対し,RS練習は要するにみんなで総括チーフをだます訳だから「性格の違う2つの練習が同居して混乱するかも知れませんよ」と本部に捨て台詞を残して準備にかかった。

 練習全体の管制は上(コントロールセンタ)からやるから下(管制室)の様子はよく分からない。ロケット以外の地上の異常も当然想定に含めるからKE班に頼んで管制室を停電してもらったり,管制室で発煙筒を焚くなどいろいろな想定外のネタを考え,保安主任から「やり方が子どもっぽい」とたしなめられるが出題側はへこたれない。結果は連絡系統や全体の打上げ手順の確認などの意味も含め練習を兼ねたよいリハーサルにはなった。管制室でも役者がそろっているがTVC班安田さんの毅然とした報告の声が白眉であろう。

 フライトオペでは空力係数最悪や風の予想が外れた場合などのオフノミナルの飛翔ケースや制御の限界などについてレビューが直前まで重ねられたが,RSの立場でもこの情報は重要で特に最大動圧時は最もクリティカルな秒時の一つである。このため飛翔中の35秒付近の最大動圧通過時点では二つあるRSモニタ画面の片方ではロケットの姿勢を見るように設定していたが,この時ピッチ姿勢がポンと跳ね,ドキリとした。すぐにテレメータの一時的なロックオフのためと分かり搭載テレビでもロケットが順調に飛行しているのを見て胸をなで下ろした。ともあれRS班は例によって何も仕事をせずに済み,ロケットの飛翔はすべてノミナルで,RG班前田さんの「軌道正常!」の連呼だけが耳に残ったフライトであった。

(稲谷芳文)

本番では出番がなくてほっとするRS班


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