No.194
1997.5

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未来へ

 かくてM-Vロケットはデビュー戦を飾った。5月半ばには,「はるか」と長野県臼田の64mアンテナとの間で干渉計が成立し,直径3万kmの「人類の巨大な瞳」ができあがったという。

 @ロケットの性能確認
 A工学実験衛星MUSES-B
 B電波天文衛星「はるか」

という3つの任務が今果たされようとしている。打上げ成功後多くの人が涙を見せた。悲しみの涙ではない。厳しい闘いを経て勝利をつかんだ人のみが流せる,万感こもる涙だった。

 さて第2戦は?という矢先に,LUNAR-Aの打上げ延期が発表された。第2戦の登板が予定されたM-Vの2号機は,手ぐすねを引いたまま,来年夏のPLANET-Bを運ぶ3号機に先発を譲った。PLANET-Bは謎に包まれた火星の上層大気とその太陽風との相互作用を探る。そしてつづいて新装なったLUNAR-A。ペネトレーターと熱流計のネットワークで月の内部を覗く。21世紀最初の一戦となるMUSES-C(2002年初め打上げ)は,人類初の太陽系の小天体からのサンプルリターンである。1970年代,米ソの華々しい月惑星探査を指をくわえて眺めるしかなかった日本の惑星科学チームは,昨年までの主戦投手M-3Sによってハレー接近観測(さきがけ,すいせい)と月スウィングバイ(ひてん)を経験した。そして今M-Vというエース・ロケットを獲得して,月へ惑星へとはばたく時代を迎える。

 M-3Sは,活動銀河,ブラックホール,中性子星,超新星などについてX線の目で次々と大きな発見を成し遂げている高エネルギー天体物理学(ぎんが,あすか),激しく活動する太陽の姿をダイナミックにとらえている太陽物理学(ようこう),GEOTAILと連携して地球磁気圏の構造モデルを塗り替えつつある宇宙プラズマ物理学(あけぼの)など,日本の宇宙科学を素晴らしい勢いで世界の舞台に押し上げた。M-Vの登場は,電波天文学の分野でも日本を世界のリーダーに導く。2000年初めに予定されるM-Vの第4戦では,広いエネルギー領域で宇宙のX線源を見つめるASTRO-Eが「あすか」を継ぐ。そして2002年度には,ASTRO-Fの赤外線の目が冷たい宇宙に向けられ、生まれつつある銀河や惑星系を見透す。

 さあ新しい時代へ。その前に私たちは,自分の展望と戦力を再点検する必要があるだろう。ミューと科学衛星の時代を築いた同志は、高齢化は目立つが健在である。みんな人手と予算の不足を終電と徹夜でカバーしながら懸命に南船北馬の日々を過ごしている。打上げ協力の有難い実態やさまざまな広報の成果を見るかぎり,宇宙科学の発展を望む人々の合唱団も輪を拡げつつある。ただし未来への展望と揺るぎない確信・道標をまだ手に入れてはいないように見える。私たち一人一人の一生を有意義なものにするために,M-Vで見事な勝利を手に入れた力を再結集しよう。美酒の後のハードルを乗り越えるために,「勝って兜の緒を締めよ」。ハードルの向こうには,日本の宇宙科学の輝かしい未来が微笑んでいる。

(的川泰宣)


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