No.194
1997.5

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1.4   構造系の開発

1.4.2 構造系の開発経緯

 構造・材料の開発は,1990年度から始まった。

【モータケース】

 1段目と2段目のモータケースは,実機サイズのモータケースが耐圧試験中に低い圧力で破壊するというアクシデントに見舞われた。原因はこのモータケース用に開発した材料や検査方法にあったため,新たな非破壊検査方法の導入や材料の組成・熱処理の見直しを行った。その後,この新しい材料製のモータケースは耐圧試験等を無事終了し,その性能が保証された。3段目のCFRP製のモータケースは,小型の試作品で試験を繰り返した後に実機サイズの試作品に取りかかったのだが,CFRP製であるが故に大きくなることによって初めて見えてきた問題に直面させられた。しかし,長年培った独自の技術力で無事,各種試験をクリアし,CFRP製としては世界最大級の直径をもつモータケースが完成した。また,わが国ではMロケットだけがCFRP製のモータケースを実用している。

【接手】

 1〜2段接手は,わが国で初めて採用するFIH分離方式に対応するためにユニークな設計になった。開傘パネル部の円筒は周方向に3分割されているため,荷重によって接手が予想外に変形することを心配したが,小型の試作品及び実機サイズの試作品とも,強度・剛性試験でそのようなことは起こらず,強度に問題ないことを確認した。一方,分離用の火薬の量,焼き切られる結合部の金属の種類・厚さなどは要素試験でデータを蓄積し,現在の仕様を決定した。その後,小型の試作品と実機サイズの試作品の分離試験(写真上)を内之浦で実施し,分離機能が正常に働くことを確認した。この分離試験は,周りの建物の壁に穴があいたり,カバーが突き刺さったりして,すさまじいものだった。最後にST-735ロケットの2号機に小型の試作品を搭載して,飛翔下でのFIHによる分離試験を成功させ,現在の仕様を確定した。2〜3段接手は,表面板を軽くするために,飛翔中は大きく変形(座屈)しても構わない程度に薄く設計した。強度・剛性試験では荷重が増えるにつれてボクンという音を立てて座屈し,板にしわが増えていく様はなかなか壮観だった。この試験結果を受けて,マルマンバンドから外れないように2〜3段接手と3段目の結合部のズレを抑える設計変更をした。このマルマンバンドのサイズは,宇宙研が経験したことのない大きさだったのだが,分離試験(写真下)では,コマがバンドから脱落しない対策を施して,正常に作動することを確認した。

【後部筒とフェアリング(NF)】

 後部筒については,後部ランチングフックから伝わる荷重が,検討の結果当初の予測値より増加したため,一部リングを補強した。甲斐あってか,強度・剛性試験は問題なく終了した。NFは,ロケット本体とNFとをつなぐボルトの一部に荷重集中が発生したため,その対策で強度・剛性試験を何回も繰り返した。しかし最も苦労したのは開頭機構の開発である。衝撃を小さくするために火薬の量は少なく,かつ開頭機構が正常に働く火薬の量の幅を極力大きくすることを目標にして要素試験を繰り返したが,現在の仕様に至るまで幾度となく予想外の結果に遭遇した。仕様確定後には,フルサイズの開頭機構だけのシステム試験とNF開頭試験(写真右)を実施し,開頭機構が正常に働くことを確認した。
 この他にも種々の問題に直面したが,その都度対策を施し,構造・材料の開発を終了した。

(峯杉賢治)



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1.4.3 モータケースの開発
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