No.194
1997.5

コラム

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 今回は風にはずい分悩まされました。まるでMロケットの初期の頃に戻ったようでした。当時は第1段には制御装置がなく尾翼が頼りでしたから,風の推定をまちがえると軌道がそれて,人工衛星にならなくなる可能性があったのです。よく誤解されますがロケットは風に流されるのではなくて風に向って飛びます。ロケットの速度がまだ遅い発射直後の地上近傍の風が問題でした。
 今度の場合は尾翼がないのでロケットは不安定で,何もしなければロケットはひっくり返ります。これを強力な制御力で所定の方向に向かせるわけですから,あまり予想外の風が吹くと荷重が大きくなって機体が破壊してしまいます。この場合,動圧で表される空気力が最も強くなる地上10〜15km付近での風の推定が問題でした。気象庁の予想データを長期間追跡するなど慎重を期し石井助教授,山川助手の若手が予測にかなり苦戦していましたが,鶴田,水谷両教授の(地球物理学出身者として分らぬ筈がないという観点からしばらくは火星と月の事は忘れてもらって)参加を得て大いに事態は改善され,当日の見事な予測となりました。たかが線を引いて外挿する位のことが何でできなかったのだとの問いには,両若手“何しろ気象庁に電話すると教え子の方が居たりするんだから敵いません”と,実力ではなく権威に服したような云い分でありました。

(松尾弘毅)



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2.6 発射オペレーション
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コラム11 定時は午後8時
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