第1回宇宙科学研究所賞(2014年度)

平成27(2015)年1月から所内委員会で選考を行った結果、記念すべき第1回宇宙科学研究所賞を下記の方々に授与することとなりました。

土井 靖生

東京大学 大学院総合文化研究科 助教(赤外線天体物理学)

受賞理由

『赤外線天文衛星「あかり」遠赤外線検出器開発、及びそれを用いた高詳細な全天の遠赤外線画像データの作成』

土井氏は、日本初の赤外線天文衛星「あかり」の遠赤外線全天サーベイ観測の実施にあたり、装置開発・観測運用・観測データ処理の全てにおいて 中心的役割を果たし、観測の成功に大きく貢献しました。

波長0.1ミリメートル程度の遠赤外線は、星・惑星系誕生の過程を知るために鍵となる波長帯です。土井氏は検出器製作過程を工夫することで、「あかり」衛星に搭載用の世界最大規模の画素数となる検出器の開発に成功しました。

「あかり」衛星打上げ後、土井氏は観測天体に応じた衛星姿勢運用や検出器制御の計画立案を行い、一年五ヶ月に及んだ全天のサーベイ観測を成功させ、観測データの解析においても中心的な役割を果たしました。ノイズを含む検出器の出力信号から、真の信号を取り出すプログラムを開発し、遠赤外線の波長帯では世界最高の解像度を持つ全天の遠赤外線画像を完成させました。 完成した画像データは、JAXA宇宙科学研究所からインターネットを通じて世界の天文学者に向けて公開されています。 この画像データは、天文学の広い範囲の研究に大きく貢献すると期待されます。

土井 靖生(どい やすお)
科学技術振興事業団 科学技術特別研究員、東京大学助手を経て2007年より現職。
大学院修了当初より遠赤外線検出器の基礎開発を推進し、完成した検出器を「あかり」衛星に搭載。全天の詳細な遠赤外線画像を作成し2014年12月に世界の天文学者へ向け公開。
現在は「あかり」画像データの解析に加え、次期赤外線天文衛星SPICA計画の遠赤外線観測装置日本側代表者として計画の推進に携わる。

山口 智宏

GMV社Mission Analysis Engineer(宇宙航行力学 宇宙システム工学)

受賞理由

『小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の軌道ダイナミクス評価・飛行解析』

山口智宏氏は、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の開発から打ち上げ後運用に至るまで参画し、継続して軌道ダイナミクス評価、飛行解析に携わってきました。

山口氏はIKAROSの主目的になっている、太陽光圧による加速の確認、ソーラーセイル機の軌道運動の解明と、太陽光圧を使った軌道制御の解析と評価を行いました。

また、現実のセイルには皺(しわ)などの凹凸や、場所による光学特性の違いにより反射特性に分布があるが、そのようなセイルの複雑な構造・材料特性と軌道運動との関係を解明し、IKAROSの飛行データとソーラーセイル機の軌道運動を直接的に関係づける手法を考案しました。

この手法は、従来の深宇宙軌道決定手法のように探査機の位置・速度のみを推定するのではなく、姿勢と軌道運動の不明量を同時に取り扱うことで推定精度を向上することが特徴であり、ソーラーセイルの特徴を利用した、実用性と独創性を兼ね備えた手法です。これによりソーラーセイル機の設計において、軌道・姿勢運動・構造・材料特性を結びつけて論じる道が拓けたと言えます。

さらに山口氏は、JAXA宇宙科学研究所の軌道決定グループがソーラーセイル機のナビゲーションを行う礎も構築しており、プロジェクト活動としてのIKAROS、そしてそれに続く将来の宇宙探査計画への発展・応用へ多大な貢献をされました。

山口 智宏(やまぐち ともひろ)
2012年総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻博士課程修了。
2009~2012年日本学術振興会特別研究員(DC1)。
博士課程在籍時にJAXA宇宙科学研究所にて、はやぶさ、IKAROSの軌道解析を行う。欧州宇宙機関(ESA-ESOC)のContractorとして、深宇宙探査機(ExoMars計画、JUICE計画など)の研究開発に参画。渡欧後も、将来ソーラーセイル探査計画の軌道力学に関する研究に参加。

坂本 啓

東京工業大学 大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻・准教授(宇宙構造物工学)

受賞理由

『ソーラー電力セイルの確実な収納・展開の実現に向けた構造研究』

坂本啓氏は、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」において、最難関ミッションであるセイルの展開に大きく貢献しました。具体的には、従来よりも厳密なセイルモデルを構築して数値解析を行い、膜面の微小な剛性がセイルの展開挙動に与える影響を示しました。これを地上試験で検証し、安定してセイルを展開するための条件を明らかにしました。

また、セイルの展開途中に膜面が引っかかった場合に、スラスタを噴射してセイルの展開をサポートするバックアップ制御法も考案しました。

これらの研究成果はIKAROSの設計・製造・運用に反映され、IKAROSミッションを成功に導きました。

さらに坂本氏は次期ソーラー電力セイル検討チームにおいて、数1000平方メートル級の超大型セイルの収納方法を提案しました。これは膜面の厚さを考慮しながらセイルを巻き付ける手法であり、再現性高く収納できることを地上試験により実証しました。

現在、坂本氏はソーラー電力セイルの汎用化を目指して、ブームを用いたセイルの展開方式を提案し、積極的に研究を進めています。

これらの成果は、国内外の学会で発表、また学術雑誌に多数掲載されていて、非常に高い評価を得ています。

坂本 啓(さかもと ひらく)
2004年米国コロラド大学ボルダー校博士課程修了。日本学術振興会海外特別研究員、日本学術振興会PDを経て、2007年よりIKAROS計画に参加。
2008年から東京工業大学大学院理工学研究科 助教を経て、2015年2月より現職。