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「あかり」観測開始


 日本初の赤外線天文衛星「あかり」が、いよいよ観測を開始しました。

 「あかり」には、液体ヘリウムと冷凍機を使って−267℃という極低温に冷やされた特殊な反射望遠鏡(口径約70cm)と、二つの観測機器(遠赤外線サーベイヤおよび近・中間赤外線カメラ)が搭載されています。先月号でお伝えしたように、望遠鏡などが納められている冷却容器の蓋が4月13日に開放され、「あかり」の観測機器は宇宙からの赤外線をとらえ始めました。その後は試験的に取得した天体のデータを使って、望遠鏡や観測機器、あるいは姿勢制御装置の動作を調整する作業が続きました。5月に入ってこの作業もほぼ終了し、望遠鏡や観測機器は期待通りの性能を発揮し始めました。そして5月8日からは本格的な観測を始めることができました。

 極低温冷却のために搭載されている液体ヘリウムは、少しずつ蒸発して減っていきます。現在の予想では、液体ヘリウムがすべてなくなるのは蓋開けから約1年後です。半年間で全天を1回観測することができるので、全天を2回観測するだけの期間が確保できていることになります。これからの1年間、「あかり」は休む暇なく観測を続けます。液体ヘリウムがなくなった後は、冷凍機だけによる冷却で、一部の観測が継続される予定です。

 以下では、「あかり」の観測機器の高い性能の一端をご覧いただくために、試験観測のときに得られた画像の例をご紹介します。私たちが住む銀河系の中では、ガスと塵からできた雲から今でも恒星が作られています。図1と2は、こぎつね座にある反射星雲IC4954付近の赤外線画像です。この領域では数百万年前からいくつもの恒星が作られてきました。今も原料となる水素ガス雲が残っていて、恒星が生まれています。赤外線画像では、水素ガス雲の中に漂う塵の赤外線放射によってガス雲の姿がきれいに映し出され、またその中でまさに生まれつつある恒星も見ることができます。この画像に写っている領域は差し渡し十数光年、波長の長い赤外線で鮮明な画像が撮られたのは初めてのことです。

図1 遠赤外線サーベイヤが波長90マイクロメートルで観測した反射星雲IC4954付近の画像 図2 近・中間赤外線カメラが波長9マイクロメートルで観測した反射星雲IC4954付近の画像

 また今月号の表紙は、「あかり」によって撮影された、おおぐま座にある有名な渦巻銀河メシエ81(M81)の画像です。ここでは、波長が異なる3種類の赤外線による画像を、それぞれ青、緑、赤で表して合成してあります。銀河の中心付近から青白く広がっているのが年老いた恒星からの赤外線で、緑から黄、赤に見える部分は新しく生まれた恒星の光によって暖められた星間空間の塵が放射する赤外線を表しています。古い星たちは滑らかな分布をしているのに対して、若い星やガスと塵の雲は、渦巻きの腕に沿って分布しているのが分かります。


 これまで全天の赤外線地図は、1983年にアメリカとオランダ、イギリスの共同で打ち上げられたIRAS衛星によって作られたものが使われてきました。今回お見せした「あかり」のデータは、IRAS衛星の画像よりも数倍〜数十倍高い感度や解像度を持っています。「あかり」は、この高い性能で宇宙の地図を作り直そうとしています。その結果は全世界の天文研究者に公開される予定です。「あかり」による新しいデータを使って、銀河がどのように作られて現在の姿になったのか、星、惑星系がどのような場所でどのように作られたのか、などが明らかにできると、プロジェクトのメンバーも張り切っています。

(村上 浩) 


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