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PLANET-Cで金星探査を行うそうですね。
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今村: |
金星は地球と共通点の多い惑星です。例えば大きさがほとんど同じで,太陽からの距離もそれほど変わりません。太陽系が作られたとき,金星と地球は似通った姿で誕生したと考えられています。しかし現在の金星は,主に二酸化炭素から成る分厚い大気があり,地表の気温は約460℃という過酷な世界です。なぜ金星と地球の環境や気象はこんなにも違ってしまったのか。その謎を探ることは,地球環境を理解する上で重要な鍵となります。
ただし,金星の上空60km付近には硫酸の厚い雲があり,金星全体を覆い尽くしているため,その下の気象を外から観測する方法が長らくありませんでした。ところが十数年前,雲の下の熱い大気や地面から,ある波長域の近赤外線が宇宙空間へ漏れ出していることが,地上の望遠鏡による観測で発見されたのです。私たちはその波長域で雲を透かして観測できる高解像度の近赤外線カメラを開発し,さらに雲の温度を測る赤外線カメラ,雲の細かな模様や成層圏の化学物質をとらえる紫外線カメラ,雷などをとらえる超高速のカメラにより,金星大気の3次元的な循環を動画としてとらえようとしています。
つまり,世界で初めての本格的な惑星気象衛星,金星版「ひまわり」をつくろうというのが,PLANET-Cのコンセプトです。金星の雲が流れ,大気が動いていく映像を見ることで,研究者だけでなく,誰もが金星の気象を実感として味わい,楽しめるでしょう。すると,身の回りの気象を見る目も,がらりと変わるはずです。
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金星には不思議な風が吹いているそうですね。
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今村: |
硫酸の雲が浮かぶ高度60km付近で,秒速約100mという強い風が東から西へ吹いています。そして金星の大気は4日間で金星を一周しています。ところが,金星の自転周期は243日。金星の大気は地面の約60倍の速さで回転しているのです。実は,自転周期が16日と遅い土星の衛星タイタンでも,自転速度の約10倍の速さの強風が吹いていることが,今年,小型探査機ホイヘンスの観測で確かめられました。このような現象を「超回転」と呼びます。
地球でも秒速数十mの偏西風などが吹いていますが,自転に比べるととても遅い速度です。宇宙から見ると地球の大気は地面に引きずられるようにして,ほとんど一緒に回っています。なぜ金星やタイタンの大気は地面よりもはるかに速く回っているのか。大気と地面の間には摩擦力が働くので,普通なら大気の回転は遅くなり,止まってしまいます。金星には超回転を維持する未知の気象メカニズムが働いているはずです。それをPLANET-Cで解明したいのです。
私たちは,このような金星の気象観測により,「惑星気象学」を切り拓くことができると考えています。それは単に地球以外の惑星の気象を知ることではなく,宇宙的な視点で地球の気象を見直すということです。そもそも地球がなぜ現在のような環境になっているのか,逆にいえば,なぜ地球は金星や火星のような環境になっていないのか,私たちはよく分かっていません。金星や火星など,ほかの惑星の気象を探ることにより,地球だけを見ていては気付かなかった,もっと奥にある普遍的な惑星大気の物理を理解できるはずです。
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子供のころから気象に興味があったのですか。
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今村: |
台風が大好きでした(笑)。風が好きなんです。風に吹かれて流れていく雲を眺めていると,地球は生きているんだなぁと感じました。一方,惑星や宇宙にも興味がありました。小・中学生のころ,惑星探査機ボイジャーが,木星や土星,天王星や海王星の美しい画像を地球に大量に送ってきました。日本でも宇宙研がハレー彗星へ向けて探査機「さきがけ」や「すいせい」を飛ばすなど,宇宙の新しい情報が次々と届けられ,わくわくしていました。このような気象と宇宙への興味が一緒になって,ほかの星ではどんな風が吹いているんだろう,と興味を持つようになったのです。
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将来の夢は?
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今村: |
究極の夢は,どこかの星に行って,山の上にでも座り,風の音を聞いたり,雲の流れを眺めることですね。実際にそこに自分が行けなくても,例えば金星に気球を浮かべたり,火星に気象衛星や飛行機を飛ばして観測できれば面白いと思います。もう一つの究極の夢は,太陽系惑星の過去・現在・未来の気象をトータルに理解することです。地球や金星の未来はどうなるのか,また過去にさかのぼって,例えば恐竜がどんな風を感じていたのか,生命が生まれたころの地球や,同じ時期の金星や火星がどんな気象だったのかを知りたいのです。
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